第9話

5分ほどハンバーガーショップの列に並び、ようやく俺の番が来ると、特にメニュー表を確認することもなく同じハンバーガーのセットを2人分注文した。ドリンクは烏龍茶。サイドメニューは無難にフライドポテトを頼んだ。


それからしばらくレジの横にずれて待っていると、屈託のない笑顔を浮かべる店員のお姉さんが注文したハンバーガーのセットを2人分持ってやってきた。


「おまたせしました。フライドポテト、揚げたてなのでお気をつけてお運びください」


「ありがとうございます」


最後までにこやかな笑顔を浮かべる店員のお姉さんに一言礼を言うと、2人分のハンバーガーセットが乗ったプラスチックトレイを持って席へと戻った。


あいつも店員のお姉さん程とは言わないものの、もう少し他人に……というか俺に接する態度を和らげてもらいたい。


今日だけで一体何度あいつに罵倒されたのか、数えるのも面倒だ。



そんなことを考えながら白月が待つ席へと戻ると、若い男性2人組が白月を囲むようにして何やら話しかけているのが見えた。


知り合いか?


……いや、あいつに男の知り合いなんているわけがない。これはおそらくナンパというやつだろう。


少し近づいてみると、男たちの横顔と話し声が確認できた。


どうやら白月に話しかけている男2人組は、先程から白月のことをチラチラと見ていたあの男性たちらしい。



「ねーねー、さっき一緒にいたやつって彼氏?」


「あんなのと遊ぶよりさ、俺らと遊ぼうよ。いいところいっぱい知ってっからさぁ〜」



こういうことするやつって本当にいるんだな……


それにしても、こいつらは『綺麗な薔薇には棘がある』って言葉を知らねぇのか。そんな女、迂闊に近づくべきじゃねぇぞ。



絡まれている白月よりもその男性2人の方を心配していると、沈黙を貫いていた白月の口が開いた。


「失せなさい。目障りよ」


「あ?」


「聞こえなかった?目障りだと言ったのよ。自分自身の価値も測れないような低俗な人間が、私のような崇高な人間に話しかけないでもらえるかしら」



これはまずい。

明らかに男2人の表情が変わった。


俺は2人組から流れる不穏な空気を素早く察知する。



「え、何?あんた、俺らのことナメてんの?」


「今のはイラッときたわぁ〜。……ちょっとお前こっち来いよ」



そう言って男の1人が白月の手を掴もうと腕を伸ばす。


——その瞬間、とっさに体が動いた。



「アッ!っつ!!!」


「おいテメェ何やってんだ!!!」


気がつけば、俺はトレイの上のフライドポテトを男目掛けてぶん投げていた。

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