第8話
フードコートは予想通り多くの利用客でごった返しており、席を見つけるだけでも一苦労だった。
それでもなんとか2人分の席を確保した俺たちは互いに向かい合って腰を下ろす。
「全く、これだけの数の凡人がいるとなると、天才の私が目立って目立って仕方がないわね。……そういうわけで皇くん、代わりに昼食買ってきてちょうだい」
席に座るや否や、また訳の分からないことを言い出した。
「自意識過剰にも程があるだろ。誰もお前のことなんて気にしてねぇよ」
「凡人のあなたには分からないかもしれないけれど、天才というのはただそこにいるだけで目立ってしまうものなのよ。それ抜きにしても私、可愛いし」
「自分で『可愛い』とかいうか普通……」
「事実だもの。ほら、あそこに座っている男の子たちなんて、ずっとこっちをチラチラ見ているわよ」
そう言って白月が指差した先に目をやると、確かに俺と同年代くらいの男子2人組がこちらを見ながらひそひそと何かを話している。
「きっと『おい、見ろよ!いかにも凡人って感じのモブ男が美人な女の子と一緒に座ってるぜ!邪魔だからさっさと席立って、女の子の分の昼食買ってこいよなー』って話しているのよ」
「後半、完全にお前が思ってること言っただろ」
しかしまぁ、言われてみれば確かにあちこちから視線を感じる。
俺も初めてこいつを見たとき、他の奴らとは纏っている空気が違うように感じた。
もしかすると本当に、分かる人にはこいつが俺たち凡人とは住む世界が違う『天才』であると分かるのかもしれない。
それに、こいつが人の目を引く容姿をしているという点についても否定はしない。
どこまでも深く、静かな黒い髪。
身体の芯が凍るほどに美しい双眸。
スッと通った鼻に薄く色付いた桜色の唇。
そして、人形のように白く繊細な素肌。
こいつは、街を歩けば100人中100人が間違いなく目を引く容姿をしている。
1人で街を歩いていれば、きっとモデル事務所やアイドル事務所からスカウトがかかり、モデルやアイドルとしても十分活躍できることだろう。
毒の塗られた剣山のような性格と絶対零度の毒舌さえなければの話だが……
「そういうわけだから皇くん、早いところ昼食を買ってきてちょうだい。あまり女性を待たせるものでもないわよ」
「どういうわけかイマイチよく理解できないが、今回のところは買ってきてやる。ただし、何買ってきても文句言うなよ」
「保証はできないけれど、とりあえず頷いておくわ」
俺はそう言って小さく首を縦に振る白月を一瞥してから席を立つと、2人分の昼食を買うために某ハンバーガーショップの待機列、その最後尾に並んだ。
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