第7話

結局30分以上も店内で服を物色していたにもかかわらず、何も購入することなく俺たちは店を出た。



「なぁ」


「何よ」


「これ、本当に俺必要か?時間を無駄に消費させられてるだけのよう感じるんだが」


「必要よ。とっても必要。ここに皇くんがいてくれなきゃ、あなたの存在価値なんて皆無に等しいくらいには必要よ。さ、次行きましょう」


ひょっとしてこいつは、一度口を開くごとに罵倒を挟まないと死ぬ病気でも患っているのだろうか?


昔、『鉄の女』と呼ばれる女性がいたことは知っているが、こいつの場合は『塩化鉄の女』って感じだ。


触れても飲み込んでも身体に毒。

慎重に扱わなければ害をなす。


被害者が増える前に取り扱い注意のシールを貼っておいた方がいい。


***


それから俺は白月が立ち寄る先々で同じようにショッピングに付き合わされた。ショッピングといっても何かを購入するわけでもなく、ただ商品を見るだけ。つまり、ウインドウショッピングだ。


俺の役目は服選びだの荷物持ちだのと言っていたが、そもそもこいつは何か購入しようとすらしない。


何か欲しいものがあるから、ここに来たんじゃないのか?


なんだか、ますますこいつの目的が分からなくなってきた。



「ねぇ、皇くん」


「なんだよ」


「私、お腹空いた」


「そうか」


通路の途中で急に足を止めたから何かと思えば……


腹が減ったならそのままどっかの店にでも入って昼食にすればいいと思うのだが、白月は後ろを振り返り、俺の顔をじっと眺めてくるだけで動こうとしない。


「……え、なんだよ」


「……『なんだよ』はこちらのセリフよ。早くしなさい」


「は?」


言っている意味が理解できず困惑する。


「……呆れた。私が『お腹空いた』って言ってるのに、オススメの店を探して案内するくらいのことも出来ないの?そんなことすら満足に出来ないなんてあなた、他に何が出来るのよ」


「いや、マジで何言ってるのか分からなかったんだが。ってか、店くらい自分で探せ!それともあれですか?人に頼らないと何もできないんですかぁ〜?そんなことも満足に出来ないなんて、白月ちゃんには一体何が出来るんでしょうかねぇ?」


そんな理不尽すぎる命令に対しては、流石の俺も反抗せざるを得ない。

だから、少しばかり煽りも加えて言い返してやった。


俺の煽りを受けた白月の眉がピクリと小さく動く。


「勉強、運動、書道、絵画、楽器、生け花、演劇、歌……凡人のあなたなんかよりは、よっぽどたくさん出来ることがあるわよ。あなたと一緒にしないで」


焔さえ凍てつくような鋭く冷たい瞳を向ける白月の声には、僅かばかりの苛立ちが感じられた。


「キレんなよ……」


「は?あなたみたいな虫ケラに対してキレるわけがないでしょ。ただ『使えねぇなこいつ』と思っただけよ」


「やっぱりキレてんじゃん……まぁいいや。腹減ったならフードコートで何か食おうぜ。連休最終日で人も多いだろうから、早く行かないと席無くなるぞ」


「初めから大人しくそうしてればいいのよ。全く……まさか『飼い犬に手を噛まれる』ということわざの意味を身をもって体感することになるとは思わなかったわ。躾が足りなかったのかしら?」


「人を犬扱いするんじゃねぇ」


***


そんなこんなあって俺たちは、昼食を摂るために2階のフードコートへと移動した。

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