第2話
幼い頃から私は「天才だ」「神童だ」と周りから常に持て
うちには他の家よりもたくさんの資産があって、両親は1人娘である私に多くのことを経験させ、そして学ぶ機会を与えてくれた。
大抵のことはやれば2、3回で完璧にマスター出来たし、大会で賞を受賞することも私にとっては簡単なことだった。
私自身、才能のある者はそれを行使する義務があると思ってる。
だから、その才能を上手に活かすための努力も怠ることはなかった。
けれど、私の才能が開花していくたびに、私に対する周りからの期待はどんどんと大きくなっていった。
小学5年生の頃、両親の仕事の都合で違う街に引っ越すことになった。
転校先の学校が決まった時も「どうせまた天才だ、神童だと持て囃されて、サーカス団に飼われる芸持ちのライオンみたいに周りから気持ち悪い視線を浴びせられるんだろうな」と、そう思った。
そんな私の予想は半分的中した。
周りの期待を裏切らないために、勉学にもスポーツにも芸術分野にも、必死になって取り組み、結果が出るたびに同じように教師や生徒たちから賞賛の嵐を受けた。
けれどそんな中で、私に賞賛とは真逆の感情を向けている生徒がいた。
周りには隠しているつもりなのだろうが、私には彼が『嫌悪』や『苛立ち』といった感情を私に対して抱いていることに気がついた。
その時、私は初めて芸持ちのライオンなどではなく『1人の人間』として見てもらえたような気がしたのだ。
だから私は彼に自分から声をかけることにした。
接触を続けていくうちに、彼は私のような『天才』を酷く嫌っているということが分かった。
それでも、私は彼への接触を続けた。
彼と一緒にいる時だけは『天才の白月 蒼子』としてではなく、どこにでもいる普通の少女でいることができたから。
欲を言えば、彼には『天才の苦悩』というものを知ってもらいたいと思った。
今まで一切口に出さずにしてきた弱音を彼の前で吐き出すことで、彼に私の唯一の理解者になって貰おうとも考えた。
しかし、心から『天才』を嫌う彼がこの事を知れば、きっと私の絶望する顔見たさに本気で距離を置こうとするだろう。
そうなられては困る。
だから私は敢えて彼にキツい言葉を浴びせ続け、彼が私のことを常に意識するように仕向けたのだ。
そんなこととはつゆ知らず、彼は今日も私の挑発に乗ってくる。
「ねぇ、皇くん。凡人って普段何を考えて生きてるの?猿の……凡人の考えることってあまりよく理解できないから教えてくれないかしら?」
「いや、言い直したところで失礼なことに変わりはねぇから。いい加減、その性格直した方がいいぞ。友達なくす……あっ、最初からいなかったな。悪い悪い」
こんなふざけた会話、彼以外にできる相手がいるとは思えない。
私は『天才』
彼は『凡人』
決して対等になる事は無い関係性。
それでも、私の才能が枯れて『天才』であることを辞めることができるその日まで、彼と共にいたいと、私は密かに願うのだった。
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