前哨戦。2
「……眠いな」
「だろうな」
屋上前、踊り場の階段に二人で並んで腰掛けた。
横顔は朝の笑顔は見る影もなく、少し青白い。俺に謝罪したあの時点でもかなり無理をしていたのかもしれない。
ここまでのモノを書き上げるには相当の労力、恐らく不眠不休での活動を必要としたはずだ。
その疲労は自分も経験があるので、コイツの抱える辛さは痛いほど分かった。
「でも、その……なんだ。気分がスッキリしないか? そこまで頑張って書き上げてさ」
俺の意見に、何だか納得いかないという顔をしている。
「……いいや、それでも出来上がるのは未完成品だ。そこから完成品に高めるまでには、更に時間を要するんだよ。今の私には、そこが限界だな。未完成品を許容してしまうほどの精神的な弱さしか、ない……」
喋っている間も眠いのか、うつらうつらとしてちゃんと考えて言っているのか怪しい。上の空みたいで、今のコイツはこれはこれで面白い気がするけど。
「保健室行くか? 俺、ついて行くけど」
「別にいいよ。これくらい、授業で寝てれば治る」
よいしょと立ち上がるも、足下はふらついてかなり危なっかしい。慌てて手を貸そうとすると、あの鋭い眼光で拒絶された。
「……今日の7限から、本格的に劇に向けて動き出す。今の私は残念ながらこのザマだ。お前が前に立って説明してくれ」
淡々と言いながら、アイツは階段を降りて行く。
「無茶言うなよ……」
ただでさえ力量差を見せつけられて参ってるってのに、大量の視線を前にして説明などできるわけがない。
俺の弱音に落胆したかのようにうな垂れると、階段を降りる足を止めた。
「……だと思った。オイ、早田」
黒い髪が翻り、黒い目が俺を見つめる。アイツが見ているのは、俺の目か?
「……今日はやめとくか。でもって、今日は金曜日だな?」
一瞬頭が真っ白になった。フリーズ、復帰してその言葉をじっくりと咀嚼してみる。
「え? あ、あぁ……」
「物分かりの悪いヤツだ。……今日、私の家に来い」
「……は?」
ふはっ、と吹き出して、俺の方へと近づいてくる。一段一段、ゆっくりと。
そうして目と鼻の先まで体を近づけると、俺を押し倒して来た。
「聞こえなかったか? 私の家に、来い」
やっぱり理解出来ない。何だって、俺が?
困惑する表情を浮かべてばかりの俺に、痺れを切らしたのか、少し眉を釣り上げて笑った。
「小説、書いてるんだろ? ……私が、添削してやるよ」
「いや、大胆すぎだろ……」
「確かに。まぁ、不調から来る一時的な気の迷いとでも思ってくれ」
フッと微笑んで、アイツが俺から離れていく。心臓の鼓動が早い。
「って、おい!」
待て待て。家に来いって言われても、場所が分からないなら意味ないだろ。
そう言うと、アイツは呆けた顔をしてから一枚のメモ用紙を俺に渡した。
そこには住所が殴り書きされていた。
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