お前のせいだ。
「……ふっ! はぁ、はぁ…。なあ、一姫」
「……ふぅ。ん、なんだ?」
カァンと快音が響く。それは向こう、俺の隣から聞こえてきていた。
「え……」
唖然とする俺に対し、アイツはもう臨戦態勢。
「どうした? 何も用が無いなら呼ぶんじゃない。私は集中してるんだ」
そうしてまた快音が鳴り響く。本日15本目のナイスバッティングだった。
あの大雨が嘘みたいに晴れ渡る青空は、見上げる俺を憂鬱にさせた。
何で俺がこんなトコに。
「次、来るぞー!」
「え゛!?」
高速でマシンから打ち出されるボールに、バットはまた空振り。
「う、わぁっ!?」
そのまま勢いを殺し切れず、派手にぶっ倒れてしまった。
「ハハッ、ザマァ無いな!」
一姫は快活に笑い、また快音を響かせる。
「……ん、はあっ!!」
冬の冷たい風が心地よく感じる。。熱く火照った体を冷ますように、肺の中の空気を全て吐き出した。
隣のアイツを恨めしく思いながら。
そうだ。何もかも、アイツのせいだよ。
お前のせいだよ、一姫。
「ほらよ」
「サンキュー」
放り投げられたミネラルウォーターを落とすギリギリのところで受け取る。
午後6時を回って7時になりかけた頃、流石に寒くなってきたので休憩のために、俺たちは中に入った。
俺は来た瞬間から帰る気満々だったので、もう帰りたい気持ちでいっぱいだった。
反対に、アイツはもう1時間やると言い出した。何やらストレス発散の一環だという。
じゃあ仕方ないよなという納得と、もう帰りたいという面倒くさい気持ちでぐちゃぐちゃになった。
でもコイツだけ放って帰るのも嫌だったので、仕方なく残っていた。
「脚本、どれくらいで書き上げられるんだ?」
「2日もあればだいたいは、かな」
外の野球少年のバッティングを眺めている。その目は若干虚ろで、気味が悪いったらありゃしない。
「目、死んでるぞ?」
「……うるさい。今考えてるんだよ」
「紙もペンも無しでか?」
アイツは紙はおろかペンすら握らず、脚本の内容を詰めようとしていた。
不意にアイデアが浮かんだ時に書き留めたりとかしないのか?
そう思ったのと同時に、アイツはハッとして我に返った。
「そ、それもそうだな」
慌ててカバンからメモ帳とシャーペンを取り出し、再びボーッとする。
「いつまでやる気だよ。てか、バッティングはもういいのかよ?」
「……」
聞いてないし。
付き合うのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、俺は目を閉じた。
俺の悩みに、そこそこの答えをくれるアイツ。
決して的確ではないけれど、その答えはどことなく同じ悩みから捻り出したモノのように思えた。
過去にもアイツは、俺と同じことで悩んでいたのだろうか。
「……悪い、寝るわ。」
アイツからの反応はない。
俺は腑抜けた声を出して、返事が無いのをいいことに眠気に身を任せた。
間も無く、意識は闇に落ちていく。
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