第2話 ケモノ
俺であった。
俺の中から獣が出ようとしている。
出せよ出せよともがいている。
俺という殼から内より搔きむしり、引き裂いて出ようとしている。
久しぶりだ、お前とはいつ以来だろうか、俺も歳をとったな。
少し頬を紅く染め、その太い指でコメカミ辺りをポリポリ掻いた。
赤くではなく紅くと書いたところが恥ずかしさを物語っている。
しかし、しかしである。
俺の中の獣は凶暴だ。
でも何故出ようとする?
俺は何かしたのかい?俺は何もしてない筈である。
たしかに昔の俺はヤンチャである、昔から獣は住み着いていた、むしろ俺自身ケモノであったのかもしれない。
それは昔の話である。
がしかし出るタイミングじゃない。
静まれよ獣、俺の中で寝てよ!
内臓の少しくらいくれてやる!
くー!
ピリピリする、コイツ、内臓を噛んでやがる!
甘噛みでである。
懐かしい痛み。
そういえば俺ももう38歳。
ヤンチャな俺も卒業、獣も鎖に繋いで長い間大人しくしていたのに、、、!
しかし俺の中の深い部分、獣は静まらない。俺の内部にガリガリっと爪を立ててやがる。
むず痒い、そんな感触が俺の内部でくすぐっている。
嫌な痒みではない、どことなく懐かしい。
出たいんだな、しかしそうさせるかよ!
だってこいつが出たら俺だって止められない!
しかし、この時の俺はまだわかっていなかった。
鎖は硬い、硬いがいつかは切れる。
人間いつかは死ぬ、電化製品もいつかは壊れる!みたいなもんだ。
こいつの力に耐えられる鎖であったのか?
そんなことを考えるが思い出せない。
こいつが記憶を食ってしまったかの様だ。
また初話の方では僕と言っていたのに俺に変わっていた事に気付いた!
俺の何かが変わり始めていた。
止められないのかこいつを!
一体誰のせいで暴れているのか?一体誰が何を?
俺は何に苛立っているんだ?
数分前をコマ送りのように遡ってみた。
脳内にあるほんの4.5畳程の会議室にブラウン管が置いてあり4人の俺がリモコンを取り合い、あーでもないこーでもないと話し合っている。
自分会議である。
いつからだろう、いつのまにか俺の頭の中に会議室が出来ていた。
わからない時や悩んだ時はよくここに来る。
4人制である。
会議室には四つのソファーがあり、真ん中にはテーブルが置いてある。
ソファーは革張りで硬くもなく柔らかくもなく80キロの俺が丁度いい座り心地である。
テーブルは鉄製の骨組みにガラスを引いた作りになっている。
誰が選んだのか、それはどうでもいい事である。
ブラウン管のテレビが大きい。
かなり高そうである。
60インチをはるかに上回る大きさである。
黒いフチのテレビである。
そのブラウン管の下に小さくメーカーが書いてある。
ソニと書いてある。
多分メーカーの名前であろう、多分。
地デジであろうか、それもどうでもいい事である。
…。
どれくらい経ったのだろう。
この部屋で気の合う4人が過ごしていた時間がである。
時間を忘れていた。
何故ここに来たのだろう、きっと少年の頃に戻たくて、少年の自分に会いに、そして戯れに。
記憶が歪み、ひずみとなり目的を忘れ、変わっていた。
何に悩んでいたのか、解決をしないまま会議室のドアを開け出て行く。
途中別の俺に肩を叩かれた。
また今度な!
馴れ馴れしい、何だアイツは、昔からなんだよあいつは。
いつからの知り合いか、そもそも知り合いなのか。
ムカつく、イライラする。
カルシウム問題なのだろうか、少しキレやすくなっている。
クソ、くそ、kuso!
さっきのやつに腹が立っていた。
メリ!
怒りで右の唇がしめりあがっていた。
その時、心の奥深くで奇妙な音というか感触がした。
ガリガリ。
け、ケモノか。
そうだ、こいつの事でこの会議室のドアを叩いたんだ!
完全に思い出した、完全とはこういう時に使う事なんだと実感した。
早く戻らねば!
俺は会議室に戻ろうと後ろを振り向いた。
右廻りである。
振り向いた俺はギョッとした。
さっき閉めたはずのドアがないのた。
確かにここに、かなりの時間を費やした、ここにあるはずの会議室がない!
どういう事だ、無い、ドアがない!
そんなバカな、俺は夢を見ていたのか。
ついさっき叩かれた肩の感触はまだ鮮明に残っているというのに。
そ、そうか、思い出した!
少し脳内麻薬、エンドルフィンが流れた。
護身術を極めた者は危機に遭遇しない。
危機に辿りつこうにも辿りつけない、と聞いた事がある。
こなタイミングで護身完成か。
ぼそりと口にする。
へへへ!と俺は笑った。
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