相談役の呟き
「村長、討伐隊のあの話は本当だったのか?正直、儂は未だに信じれなくてな。というより、信じたくない 」
「ルグフード、気持ちは分かる。・・・・・分かりすぎて辛いくらいによく分かる 」
討伐隊が到着した時には凍竜クルドガルフの姿は見つからず。
少なくとも、生きている姿は見つからなかった。その代わりと言わんばかりに、竜の特徴と酷似する死体が見つかったという。それも、何者かに喰われた痕跡があるのだと、そう言うのだ。
簡潔に話をまとめるのなら。凍竜クルドガルフは何者かに殺された挙句、食われたのだと、討伐隊はそう説明した。
「一応、討伐隊はもう少し調査してからここを出て行くそうだ。・・・・討伐隊の隊員は俺たち以上に信じれないんだろうな。老衰で死んだとかなら、まだ信じれたのだがな・・・・・ 」
「ああ、そうかもしれん。魔物のことをよく知っている分、儂らよりも思うところがあるのかも知れんな 」
「まあ、この話は一旦置いておこう。まだそうと決まったわけでもないのだし、もしかしたら討伐隊が何かしらの手がかりを持ってくるかもしれない。・・・・・それよりだな、ルグフード。俺は一つ気になることがあるんだが 」
と、村長の目がキラリと光る。
「お前の孫が全裸で外に出てたって噂は本当か?しかも、緊急発令が出た当日に 」
「ぶっ!!? 」
突然の爆弾発言に、思わず吹き出しそうになるルグフード。その様子を見て、村長は満足そうに頷いた。
「待て、何故それが他の奴に漏れている。儂は誰にもその話はしとらんぞ 」
「村人を舐めるな。何かしら、そういう類いの事は誰かが目撃してるものなんだよ。しかしその反応を見るに、噂は本当だったらしい 」
「村長・・・・・儂を嵌めよったな・・・・・! 」
「人聞きが悪いなあ?勝手に自分で嵌りに行っただけだろ。俺はただ、偶然聞いた噂の話をしただけだ 」
「くっ 」
ルグフードは村長を睨みつける。が、村長はどこ吹く風だ。ニヤニヤと、ルグフードを笑うのみ。村長の飄々とした態度に、ルグフードはふてくされてしまう。
「なんとなく、ベオが外に出た理由は分かる。どうせ、竜がどんなものか興味が湧いて見に行ったとかそんな理由だろ? 」
「・・・・ああ、全くその通りだよ 」
「でもな。何でどっかの誰かさんの孫は、よりによって全裸で外に出たんだ?いくらなんでも危険すぎるだろ 」
ルグフードの孫は村長のお墨付き、掟破りの問題児である。困った子供ではあるが、決してバカというわけでもない。
この時期に防寒具なしで外に出かけるなど、ある意味自殺行為のようなものだ。その危険性は、それこそ耳が潰れそうなくらい大人に教えられているはず。
だと言うのに、何故。
「ベオが言うに『雪山の方に歩いている内に躓いて、転けて木の枝に引っかかって、着てた防寒具が見事に裂けて、挙句の果てにどっかに吹っ飛んでしまった』のだそうだ 」
「・・・・・ようは、途中で服がダメになったのか 」
「そう言う事らしい。で、慌てて帰ってきたんだと 」
「全裸でか 」
「全裸でだ。あー、頭が痛ぇよ・・・・ 」
こめかみを抑えて呻くルグフード。そのままの体勢でしばらく動かなかったが、やがて口を開き始めた。
「・・・・・なあ、村長。儂が村長と話し終わった後、儂は愛しの家に帰ったんだ。そこまでは知ってるだろ? 」
「そりゃあな 」
「何となく嫌な予感がしていたんで、すぐにベオの部屋の様子を確認したんだ。そしたら、儂は何を見たと思う? 」
「分からないな。いや、何となく分かる気もするが 」
「ベオの裸を見たんだ 」
疲れて帰ってきたはいいが、孫が心配で孫の部屋の様子を見に行った。すると中では、孫が全裸になっている。
ルグフードは、当時の状況をひどく複雑な顔で語った。
「その後はどうして着替えているのか、何か服を汚すようなことをしたのか、と儂は問い詰めた。そうして、ベオは白状したんだ。色々隠してそうな気はするが、吐かせそうな内容はあらかた吐かせた。大体の内容は、村長の知る通りだ。でもな、本当の意味で問題はここからなんだよ 」
「ほう 」
「木の枝で防寒具が裂けたと、さっき言ったが。その防寒具はなあ・・・・! 」
「え・・・・?まさか、それって、 」
ルグフードの口調はどんどん熱を帯びていく。村長の方も何かに気づいたのか、言葉を失いつつあった。
「とてつもない手間と素材で作りあげた、儂特製の極暖防寒具なんだよ!!血と涙と苦労の塊と言っても差し支えない。商人にでも売り払えば高価で喜んで買い取るような代物だ、村長もその価値は分かっているだろう? 」
「・・・・ドンマイ 」
その後は、珍しくルグフードが村長に愚痴り続けた。
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