第7話決着
竜は俺に襲いかかる。
口を開け、そこに生えている巨大な牙を俺に向けてきて。一瞬、怯みそうになるが。
「うおおおおおっ!! 」
叫んで、俺の心の内にある恐怖を追い出した。
狼に言われた通り。右手を構え、狙いを定める。
【
狼が呪文を唱える。途端、俺の中から力が抜ける感覚がした後、右手を風が覆う。そして竜に噛みつかれる刹那。
狼の指示通り、竜の口めがけ右手を振るう。狼がかけた魔法のおかげだろう。一切の抵抗を感じず、肉、堅い骨をどうにか切り裂き。僅かに鱗に傷をつけた。でも鱗だけは段違いに硬く、狼の魔法付きの攻撃ですら壊すことは叶わない。
「・・・・・ッッッッ!!!!! 」
その激痛に耐えきれず、竜は声にならない悲鳴を上げた。
そのまま、俺は竜と正面からぶつかる。あっけなく俺は空に打ち上げられ。身体中の骨が折れていく。その痛みのせいで、気を失いかける。
と。また。体から力が勝手に抜けていくような感覚がした。
【風流操作・
地面に落ちる寸前、フワリと風が俺を持ち上げ。風は俺を連れて、竜の所まで一直線に、脱兎のごとく空を駆ける。
瞬く間に、竜の真上にまで到達し。
「【
教えられていた、呪文を唱えた。
すると、独りでに体内に宿る力が反応する。身体中に宿る、全ての力を放出し。それらを風、いや嵐に変換する。その嵐を、右手の手の平に集中して押し固めるイメージで、縮小していく。その試みは成功。
右手の内には圧縮された、巨大な嵐が蠢いている。
竜の元へと、風に運ばれて飛んでいく。
さっきの攻撃による痛みで、我を忘れかけていた竜はこちらに気づく。が、もう遅い。既に俺は、竜に向かって攻撃を仕掛けていたからだ。
「グガアアアアアアアアア!! 」
竜の頭上に、手のひらの小さな嵐を叩きつける。
見た目こそ、かわいらしいサイズだがその威力は半端ではない。あれほどの硬さを図る竜の鱗をいとも容易く砕いて、竜の頭を貫通するその様を見れば、一目瞭然だろう。
だが竜はただ黙って、俺の攻撃を受けてはくれず。
前脚で、俺を叩き落とそうと引っ掻いてくる。俺が頭の真上にいて狙いづらいのか、直撃はしていない。けど竜の爪が俺の体をかするたび、俺の体は所々切れていく。穴だった部分を裂かれるたびに、泣き叫びたくなる。
俺は、魔法の発動中なので動くことは出来ず。そのまま、なされるままに斬られ続けるしかない。
でも、徐々に竜は弱っていく。同じく、竜が繰り出す攻撃も弱まっていく。それでも力尽きようとしている体に逆らって、なお竜は俺に一撃を喰らわせようと動いていた。
そして、竜の頭を貫通した瞬間。
糸が切れたかのように。そのまま、竜の体は地面に崩れ落ちた。そしてその後、竜が動くことはなかった。
俺の体に俺と竜の血がベタベタについているせいで、すごく血生臭かった。でも今は、匂いなどどうでもいい。
竜を倒したのだ。お伽話くらいにしか登場しない、伝説といっても差し支えない存在を、この手で倒した。
それが嬉しくて。俺もまた、へたりと地面に座り込んだ。
出せるだけの全ての力を出し切ったのと。全身に受けた傷のせいで、体がとにかく重い。ここから一歩も動きたくないし、動く気力もない。
さらに、とてつもない眠気と空腹が俺に襲いかかる。空腹は
【いや、寝るなよ。そのままだと下手したら死ぬぞ? 】
え?
【お前、今の自分がどれだけ重傷か分かってるか?自分がどうなってるか言ってみろ 】
えっと・・・・・。
全身に空きかかってる穴がいくつもあって。さらに、やや深めの切り傷が1、2、3、4、5、6・・・・とりあえず二桁は超えてるのが、体に刻まれている。
ってヤバいな、だいぶ今更だけど。さっきから、睡魔のせいでまともに頭が回ってくれない。
【あの穴を塞ぐだけでも、かなりの体力を使っているのだ。今のお前の再生能力はかなりのものだが、その再生能力を持ってしても限界はある。少なくとも今はな 】
ごめん、結論を言ってくれ。どうすればいいんだ?
【だから言っただろう?竜の一部分を取り込め、と。竜の再生能力だけは馬鹿にならないのだ。流石に頭に穴を開けられれば、死ぬものは死ぬが。ともかくそうすれば、死ぬことだけはなくなる 】
ようは竜を食え、と。そう言うことか。
【まあな 】
魔物喰いをよく思わない人だったら、全力で嫌がるのだろうけど。
この村では割と日常的に食べてるので、空腹も相まって特に抵抗はない。ただ生でかぶりつくことだけは、やや抵抗があるけど・・・・。
少しだけ何だかんだと心の中で葛藤して、竜に喰らいついた。動かなくなってからそれほど時間が経っていないからか、まだ肉や血は暖かい。
生まれて始めて生肉を食べたわけだけど、味はどうだったか?血抜きもしていないので、とても生臭かった。それ以外の点を述べるのなら。淡白な味わいで、だいぶ噛みごたえがあり、噛めば噛むほど肉の旨味が溢れてくる。血抜きさえすれば、本当に文句の言うことのない完璧な肉だと思う。
空腹に苛まれていたこともあり。気づけば、食べれる部分はほとんど食い散らかしていた。
竜を満足するだけ食べた後は、そのまま意識を失ってしまう。
何かに引き寄せられるような感覚の後に目を覚ますと、全方面が白い空間にいた。
☆☆☆
【すまんな。俺様が、お前を強引にこっちに引っ張ってきたんだ 】
相変わらず、そこには狼がいる。たださっきと違うところが一つあって。それは狼の姿が僅かに消えかかっている事だ。
【俺様はそう時間をかけずに、お前に吸収される。まあ、本当はもっと前にこの意識は吸収されてたハズだが、案外我慢すれば耐えれるもんだ 】
狼の口調はとても穏やかだ。とても言葉通り、これから俺に吸収されるとは思えないくらいに。
そうこうしているうちに少しずつ、狼の形が崩れていく。
【ああ、そうだ。このままちんたらしてる場合じゃないか。俺様から一つだけ頼みある 】
そうか。出来る範囲なら守るよ。
【もしあの魔狼達に何かあったら、助けてやって欲しい。それだけだ 】
なんだ、どんな無茶振りを言われるのかと思ったけど。それくらいなら大丈夫だ。言われなくとも助けてるだろうし。
【そうか、ならいい。願うならば・・・・俺様の魂を喰らい、人と魔狼の二つの因子を持つ、半端者の行く末を見届けたかったが 】
サラサラと砂のように、狼の体のほとんどが消え失せていく。狼は自分の体の様子をみて、苦笑した。
【それは叶わぬ願いだな 】
そういえば。俺もこの狼に、言わなくてはいけないことがある。
「・・・・俺も最後に一ついいか? 」
【ん?なんだ? 】
狼は不思議そうにこちらに見る。首でも傾げそうな雰囲気だが、もう狼には首から下が存在しなかった。
「竜を倒すの、手伝ってくれてありがとう 」
そう。氷を防いでくれたり、補助魔法をかけてくれたりとか、魔法の発動を手伝ってくれたりとかね。そうでもしてくれなければ、俺は死んでいただろう。本当にあれには助かった。
【なに。そう感謝するような内容ではない。俺様を喰ったような奴が直ぐに死なれても困るし、実質今のお前は魔狼に限りなく近い存在だからな。同胞と言ってもいいくらいにだ。なら、手助けの一つや二つくらいしてやらないとな 】
そう言い切った直後に、狼は跡形もなく消えた。何というか、サッパリとした別れ方だ。アイツらしい、っちゃらしいか。
・・・・さほど時間がたたない内に、精神世界から俺の意識が薄れていく。少しだけ別れの余韻に浸りながら、俺もこの場所を去った。
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