第6話決戦
飛んでいた意識が、徐々に覚醒していく。穴だらけの、血だらけのボロボロの体が、変化する。
穴だらけだった体は塞がり始めていて。身体中から、黒色の剛毛が大量に生え始め。爪は鋭く伸び。牙も生え。全ての筋肉が異常に発達し、膨張していって。着ていた防寒着は体の変化に耐えきれず、弾け飛んでしまった。靴や手袋も同じくダメになってしまった。
・・・・これ、どうやって言い訳しようか。この防寒着(靴や手袋も含め)は村のみんなが着ているものとは少し違う、特殊製なんだとか。作るのにメチャクチャ手間がかかるしらしいし。しかも、この防寒着を作るために必要な素材が中々採れないとかそんな感じの内容をじっちゃん愚痴ってたけど・・・・。
いや、今は考えないでおこう。
でも今俺は全裸な訳だが、全く寒くない。むしろ、全裸くらいが丁度いい。
・・・・・俺が雪山でこんなことを思ったのは、生まれて初めての経験だよ。人間だった頃なら、死んでも思わないだろうね。
竜はここにはいないようだ。けど、その独特の匂いの筋が残っているのが分かる。
でも、竜は後回しにする。
それも大事だけど、もっと大事なやつがいるからね。
竜とは違う匂いを辿っていく。さほど時間もかからず、ガルの所に行くことが出来た。
俺を庇った時に背中から受けたのだろう、スッパリと斬られた切り傷が見ていて痛々しかった。
意識がないのか動こうともしない。けど幸い、傷は浅い。心臓の鼓動もちゃんと聞こえる。
命に関わる事だけはなさそうだ。その事にホッとして、それと同時に俺の竜に対する怒りはなおさら強まった。
「待っててくれ、ガル。お前に傷を負わせたあの竜を、絶対に倒してみせるから 」
そう、俺は誓う。
ガルの耳が僅かに動いた気がしたが、まあ気のせいだろう。
そうして、俺は凍竜クルドガルフの元へ向かっていった。
☆☆☆
ここは山の頂。
今日は天気がよくないから、山からの景色は望めない。でも天気に恵まれたのなら、俺が住む村が一望できる絶景ポイントだ。
その頂に、竜はいた。その立ち振る舞いには、神々しささえ感じられる。何をするでもなく竜はただ、静かにそこに存在していた。
俺は竜の背後の岩に屈んで隠れている。俺が気配を殺しているからか、竜は俺に気づいていないようだ。こちらを意識しているそぶりは一切ない。
俺の体の調子は、最悪だ。
風穴は見た目こそ塞がってはいる。けどそれは見た目だけの話。
確かに人間だった時の常識から考えると、あり得ない再生力ではある。でも、それほどの再生力を持ってしても完全に治すことは叶わない。
まだ痛む。ズキズキと、身体中を大きな刃物で刺されているような痛み。
それが、俺を襲い続ける。
「でも 」
竜を倒すと、そう誓った。
それを破ることだけは、それだけは絶対にしてはいけない。
そう、自分を奮い立たせる。
狙いは竜の片翼。
空に逃げられたら、手の出しようがない。だから、まず翼を潰す。
全力で、地面を蹴り飛ばす。雪が舞い上がり、静かだった山の頂に衝撃が鳴り響く。
瞬間、竜は身構え。己の元に訪れた外敵を見つけ。刹那、信じれないように竜は固まる。
たかが一瞬。
けど俺は、その一瞬の隙を逃さず。
右腕を動かし。手に生えた鋭い爪で、片翼を切り裂こうとする。・・・・・が、思いのほか硬くて、思いのほか攻撃が通らない。更に追撃しようと、左腕を構える。
だが、二撃目は当たらず。何故なら竜が翼を庇いながら、無理矢理後ろに飛び、攻撃を避けたからだ。
後ろに着地すると、竜は思いっきり息を吸い込む。そして。
「グアアアアアアアアアアアアアッ!!! 」
「うっ!!? 」
叫んだ。
山全体に響き渡る程の、いやそれ以上の音量で。
俺の耳がやられた。音が拾えない。体のバランスがうまく取れない。
ああ、くそっ。
地面に膝をつく。とてもじゃないが、二本の足で立ってなどいられない。
竜はそれを好機だと見なしたのか。いや、ハナからその隙を作るのが目的だったのかもしれない。
竜は宙に、細く、針のような形の氷を作り始めた。大きさは、大体大人一人分くらいか。氷針は増え始め、やがて無限と等しいほどの量まで到達した。
それと同時に、やっと俺の耳も回復する。
多少音が聞こえにくいが、こんなものどうにでもなる。二つの足で、地面を踏みしめる。
両脚に力を込め。ありったけの力を両脚に注ぎ込む。俺の脚に付いている、全ての筋肉を使い。
真っ直ぐに竜めがけ、跳んだ。
それと同じタイミングで、いくつもの氷針が俺の元へと向かってくる。衝突する少し前、僅かに体から力が抜けたような感覚がして。俺の体に触れることも叶わず、阻まれるように氷針は砕けていく。
【俺様特製風のプチ防壁は、触れることすら拒むのでな。でもベオウルフ、それもう少しで壊れるから。気をつけろ】
ふと、野太い声が頭に響く。この声には聞き覚えがあった。精神世界で会った、あの狼の声と全く一緒だった。
方法はサッパリだが、多分この狼が手伝ってくれたのだろう。
ありがとうな、狼。
喋る余裕はないので、せめて心の中で礼を言っておく。
近づく氷針を無視し、竜に接近する。ようやく、竜に攻撃が届く場所までたどり着く。
しかし、竜は逃げようとはせず。そこを離れる気は毛頭ないようだ。
ただしその代わり。竜もまた大口を開け、何かよく分からない力を集め始める。力が集まって圧縮され、俺の頭ほどのサイズの力の塊を作り上げた。
そして、その力の塊をこちらに向けて。
【!?まさかあのクソ竜、この距離でブレス攻撃をする気か!!? 】
何か聞こえた気がするが、無視。鋭い爪を竜の頭めがけ、振りかぶる。俺の爪が竜の頭へ直撃した。
が、表面を覆う銀の鱗に阻まれ、そのまま弾かれてしまう。
「!? 」
硬い。
なんだこれは。硬すぎるだろう!?せめて、少しは傷くらいついてもいいだろうに。鱗の表面には僅かな傷すらついていない。
「ぐわあっ! 」
俺を守ってくれていた風の防壁が突然、耐えられず霧散した。突如、強大な衝撃が俺を襲う。
抗う術はなく、遠くに吹っ飛ばされ。地面に叩きつけられる。
「がっ・・・・・! 」
痛い。口から内臓でも飛び出しそうなくらい、強烈な痛みだった。しかも、それだけでなく。
塞がっていた傷口が開きかけていた。
血が傷口から滲み出ている。でも、幸いと言うべきか痛みは思いのほか感じない。それでも、痛いものはまあ痛いけど。
と、竜が巧みに翼を使いこちらに近づいている。傷が浅かったとはいえ、もう片翼は治っているらしい。全く、恐るべき回復力だ。
【ベオウルフ、死にたくなければ俺様の言う通りにしろ 】
ほう、具体的にどうするつもりだ?
【一撃で、竜を殺す。そこまでは無理でも、致命傷を与えてやる。絶対にだ。今から指示するから、言うことを聞いとけよ 】
と。狼は俺に、あることを指示した。
はっきりいって、その内容は無茶苦茶だと思う。
でも、これぐらいしか竜を倒す方法に心当たりはない。内容に思うところはあるが、なら実行する以外に選択肢はないだろう。
と、俺が10歩歩けば衝突するぐらいの距離まで竜は近づき。背を屈め、竜は俺に襲いかかった。
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