エピローグ
あの日、俺は人間じゃなくなった。だけど、魔狼になったわけでもない。
狼が言った通り俺は、二つの特徴を持つどちらとも似つかない半端者だ。魔狼でもなく、人間でもない。何故なら、二本足で歩く魔狼なんていないし、まして人間が魔狼に変身するなんていうのもありえないからだ。厳密には変身っていうより、元に戻るような感覚と言った方が正しいけどね。
俺の本来の姿は二本足で歩く魔狼だけど、基本的には人間の姿に化けている。というか人間の姿じゃないと、この村で生活できないからだ。
その後に何やかんや色々あって、あの時から既に五年が過ぎた。15歳になると、村では大人になったと見なされる。つまり、俺も大人の仲間入りを果たしたばかりなのだ。
だからといって、何かが変わるという訳でもなく。これからも狩猟者であるじっちゃんの仕事であるを手伝うのだと、そう思っていた日がありました。昔はね。
俺は背中に荷物入れを背負い、村の出口へと向かう。
「ベオ君、もうそろそろ出発するよ。別れは済んだかい? 」
村の出口に馬車を止め、温和な笑みを浮かべながら俺に話しかけてきた。彼はセルドアさん。
俺が生まれた時くらいに、この村にやってきた商人だ。ふくよかなお腹と、賢さ漂う眼光を目に宿していて。全身に優しげな雰囲気を纏っている。本人的には、僅かに生えたあご髭がチャーミングポイントであるらしい。
「はい、もう出発しても大丈夫です。すみません、待たしてしまって 」
「いやいや、構わないよ。なら、もう出ようか。あまり長居していると、尚更ここにいたくなるだろう? 」
そう、俺は今日この村を離れる。当分、ここに帰ることもないだろう。名残惜しくはあるけれど、別れを惜しんでいては何も始まらない。
セルドアさんと俺は、馬車に乗りこむ。セルドアさんは御者台に腰を下ろし、俺はというと荷物が積まれた車両へと足を進める。
そうして、しばらくして馬車は進み始めた。まだ見ぬ場所に向かって、馬は走る。この先どうなるか不安な気持ちと、どんな事が待ち受けているのかという期待を胸に抱え。
俺は故郷を去った。
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