第3話聞き込み調査

 そうして、僕はガルに背中を乗せてもらい雪山の麓にやってきた。

 山頂に登れば登るほど植物を見かけなくなるが、ここら辺はまだ入り口のようなものなので所々に植物の姿が見て取れる。


 視界は良くない。かなりの雪が吹雪いており、そのせいで周囲の様子が見づらい。

 あと、家を出た時から思っていたけどとにかく寒い。動物の毛入りの防寒具を着ているのに、それでも寒いのだ。手先とか足先なんか、感覚がほぼない。


 何度かガルと一緒に、雪山に行った事がある。その内の一回はじいちゃんにバレて叱られたけど。

 なので少しは、普段の雪山のことを知ってるつもりだ。だからこそ分かる。

 今の雪山はいつもと違う。

 緊張感が山全体に漂っている。

 あと、いくらなんでも静かすぎだ。聞こえるのは風の音と、僕たちが雪を踏む音くらい。

 普段もそんなに騒がしい場所ではないが、それ抜きにしても静かすぎる。



「・・・・・かなり空気がピリピリしてる。間違いなく、クルドガルフのせいなんだろうな 」

「はい。あの竜が来てから、ここに住む者たちは変わりました。みな、あの竜に怯えているのです 」



 話している間も、着実にガルが率いる群れの巣に近づいていく。

 というか、よくそんなに迷いなく進んでいけるな。視界が効かないし、雪が積もりまくってるから踏ん張りにくいのに。さらにいうなら、スピードも全く衰えてない。


 やはり魔狼の、それも魔狼の群れを率いるリーダーは馬鹿に出来ない。


 と言いつつも、他の魔狼はどうなのか知らないけど。




 ☆☆☆




「そ、そ、それでですね。な、仲間達は竜へと走って襲いかかろうとしました。しかし、竜の元へ我らの攻撃が届く前に、あの忌々しい竜は魔法を発動しまして・・・・。は、はい 」



 そうして僕は魔狼が居着いている洞窟に辿りつき、竜と魔狼の戦闘を見ていたという奴(魔狼)に話を聞いている。



 ただ、僕にはどうしても気になることが一つあるんだ。

 どうしてそんなに怯えているんだろうか。プルプル全身が震えてるし、何度も噛みまくっている。なんだか、聞いてるこっちが申し訳なくなってくるんだけど・・・・。



 さっきもそうだ。

 僕がこのガルの群れの巣に来た瞬間。その場にいた十匹ほどの、魔狼も、身体を低め唇と耳を後ろに引いた。ガルの言うところによると、服従の意が込められているらしい。

 何故に、瞬間の間に僕に服従してるんだよ。


 魔狼の方が圧倒的に僕より強いのに、どうして僕がこんなに魔狼に讃えられるのかがよく分からない。



 とりあえず、今はこのことを考えないでおこう。せっかく話してくれてるのに頭に入らない。



「その魔法は具体的にどういうものだった? 」

「は、はいぃぃ。す、鋭く尖った氷を地面に発生させておりました。しかもっ、我が仲間のいる場所にだけピンポイントに・・・・ 」



 魔物というのは、動物が本来あり得ない進化を遂げた存在らしい。とまあ、じいちゃんは話してたけど僕はあんまり詳しくは分からない。とりあえず僕は、動物とは違う怖い化け物くらいに思ってる。

 何が動物と違うかというと、動物は魔法を使えない。が、魔物は魔法を使える。


 他にもあるらしいけど、それが1番大きいのだとか。


 でも、使える魔法は魔物によって全く違う。

 件の竜は、氷とかその辺の魔法を扱うのだとみている。凍竜って言われるくらいだから、そんなところだろうと予想していたわけだ。

 実際に氷魔法を使ってたみたいだから、僕の読みは当たってた。



「ふむふむ、ということは火魔法が弱点だろうな 」



 大体雪山に居つく魔物のほぼ全てがそうなんだけどね。凍竜も例に漏れなかったみたいだ。


 他にも話は聞いてみたが、特にこれと言ってきになるものはなく。

 魔狼相手の聞き込み調査はこれで終わった。




 ☆☆☆




「村長、それは本当か? 」

「残念なことに本当だよルグフート。ギルドからの連絡によると、こちらに討伐隊が来るまで2週間弱かかるそうだ 」



 その言葉を聞いて、ルグフートは言葉を失った。

 村長に、家で話があると言われた時に覚悟はしていた。村長がルグフートを呼ぶ時は必ず、厄介な問題の愚痴か相談だからだ。


 正直を言うならルグフートは、こんな危険な時に家から離れなくなかった。単純に、こんな寒い時に外に出たくないというのもある。けど何より、家に残してきた孫が何かいらぬことをしでかしていないか、それが一番心配だった。

 というか、実際何かやらかしているような気がする。気のせいだと信じたいが悲しいかな、ルグフートの勘が外れたことはない。とにかく嫌な予感がするのだった。


 今すぐ自分の孫の様子を見に行きたい。けど、今はそれどころではない。



「もしもの時用の蓄えはあるから、飢え死になることはないだろう。魔物観測所からの情報によると、クルドガルフは雪山から出ることはない。けど 」

「しかし2週間、あの雪山に近づけないのは儂らからしたらかなり痛いもんだ 」



 ルグフートの住むこの村は、ここでしか採れない薬草を外に売ることで成り立っている。その薬草の名前は星雲草。雪山の麓近くに自生しており。特に星雲草の花の粉末が、最近王都に住む貴族達に特に人気なのだとか。ただし花は年中咲いている訳ではなく、一年に花が咲く時期は決まっている。

 そして今回は運が悪く。その花が開花する時期と、討伐隊が到着するまでの期間が見事に被ってしまった。


 こうなってしまっては当然、今から雪山に行って花を採取する訳にはいかない。いくらなんでも危険すぎる。

 なので、今年分の儲けは期待出来ない。


 それだけでなくもう一つ、二人には懸念していることがあった。



「・・・・・せっかくいいとこまで行ってたんだ。せめて、魔除けの印がかき消されてなければいいが 」

「ありゃあ、目が飛び出そうなくらい高かったもんな。職人に金を支払う時、村長の手ガクガク震えてた 」

「しょうがないだろ?あんな大金、一気に渡したのは生まれて初めてだったんだよ。というか、余計なことを思い出させるな 」



ルグフートは当時のことを思い出して、ケラケラ笑う。村長もまた、苦虫を噛み砕いたような顔を歪めた。


 職人が刻んでくれた魔除けの印をクルドガルフが暴れて消したりしないだろうかと、二人は気が気でなかった。また職人を呼んで仕事を頼むのは、二人にとって出来れば避けたい。

あれほどのお金が天に召されるのは、とても笑い事では済まされないからだ。

それに二人の中で考えていた計画が、思いっきり崩れてしまう。



「いっそのこと、雷の直撃でも受けてそのままどっか行ってくれないか?そんな偶然が起こったりしないかなあ 」

「・・・・出来るなら儂らも苦労はしとらんよ、村長 」



その後も二人は、今後のことを話し続けたのだった。

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