第33話 脱出

「冴えてきたぜ」

「油断すんじゃねえの」

「やる気っちゃ? バカな奴」

 ロロムたちは一斉に襲い掛かってきた。

「捩じりソソの『啜る虚ろ』!」

 ジョーノの冴えは異常というほかなかった。ついさきほどまで疲労困憊だった男が、魔人に抱かれているだけで平時以上の記憶力と精神力を取り戻していたのだから。

「むあっ?」

「っく?」

 真っ先に狙ったのは、獣人とクワガタの蟲人を激突させることであった。異能封じの解除と、蟲人の『異能』を見るのが目的である。ジョーノを簡単に追跡したのを見るに、『探知』と『瞬間移動』に準ずる『異能』を誰かが持っているはずであって、ロロムと獣人を除外すれば蟲人のどちらかまたは両者がそれであるべきなのだ。

 しかし、蟲人は『異能』を使わず激突するに身を任せた。実戦経験の差が、ジョーノの策を越えていく。

「死ぬっちゃ!」

 ロロムが長い腕を鞭のように振り下ろした。無論、『切り裂き淑女』によって容易にジョーノないしミオニスを両断する、白刃のひとなぎである。

「エルファンの『見上げる者よ』‼」

 ロロムの一撃が弾かれる。身動きできない巨人だが、盾とするなら問題はない。

「むぬっ」

「『足元を這いずる』!」

 ジョーノの『異能』には迷いがなかった。即座に回避を選んだ蟲人とは異なり、ロロムが受けようとしてしまったのは逃走直後のジョーノの矮小さが強く印象付けられていたからであった。

 そしてそれが彼女の足を掬った、濁流に巨人と言えど体勢を維持できずに倒れこむ。

「怒鳴り屋オポの『天降矢』‼」

 止めの追撃は発動しなかった。ロロムの危機を察した獣人が、異能封じをジョーノへと移したからだ。

「姉上!」

「わがっどる!」

 しかし、それも長くは続かなかった。自由になったリオールが、分身をもって彼女に襲い掛かり再度対象を変更せねばならなかったからだ。蟲人たちも、リオールとシロコーン、ニュプトルの参戦でロロムの援護に迎えない。

「もう一度怒鳴り屋オポの『天降矢』‼」

 ジョーノの雷撃がロロムを打ち抜いたかのように見えたが、寸前でロロムの姿は消え去っていた。

「もうええの? 逃げるんじゃ!」

 ミオニスの叫びと共に、ジョーノは体が浮くのを感じた。目的を達成して、子鼠の『異能』で移動しているのだろう。

「俺もなかなかやるだろ?」

「わしのおかげよ」

 そのやりとりを最後にジョーノは気絶した。流石に緊張も解けては限界だった。

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