第32話 急転
「もういい、死ねっちゃ」
ロロムが足を上げる、そのまま振り下ろして踏み殺すつもりだった。ジョーノには防御する手段がない、まさに絶体絶命である。
「いただあ!」
だが、彼の物語はそこで終わらなかった。満身創痍のところを救ったのは、子鼠の群れだった。10人程でジョーノを持ち上げて小走りに運び出す。
「あん?」
「なんにゃ?」
ロロムたちがあっけに取られていると、四方八方から雄たけびがあがった。
「みっけたど!」
「こちらへ」
これほど聞きなれた声が嬉しかったことはない。ニミー達にシロコーン、ニュプトル、そしてー
「生きとったのう」
「遅いぜミオニス……」
彼女がいた。
ジョーノの反応が薄いのは、あまりに絶妙のタイミングに死の間際の願望だと疑いを持っていたためだった。
「これでも急いだんじゃ」
「ほんにな」
幻と誤認したのは、リオールの存在もあった。冷静に考えれば館の後で合流していてもおかしくはないが、そこまでジョーノの頭は回らない。
「助けたんだがら、がえっだらはだらいでもらうがんな」
「リオール様だっちゃか?」
当初は面食らったものの、ロロムは落ち着きを取り戻していた。部下の仇はもちろん、先の大戦で逃がした敵首領らが目の前にいる。手柄を立てる絶好の機会だ。
「ロロム様、援軍をー」
「ばか、うちらだけで殺すっちゃ」
ロロムがクワガタ蟲人の援軍を拒否したのには虚栄心もあったが、ジョーノを密殺しようとしたことがばれてはまずいという算段も大きかった。同じばれるにしても、リオールらの首があれば不問に伏せられる可能性が高い。そして、数で劣っても負けない自信があった。
「異能封じはリオール様だがの?」
「それでいいっちゃ」
ロロムたちが臨戦態勢に入ったと同時に、ジョーノはミオニスに抱き上げられた。
「細立ちにしては頑丈じゃのう」
「うっせ……ネゴさんは?」
「……」
「おふっ、何するんだよ⁉」
「ばかたれ」
「ミオニスはそう簡単に死なねえだろ」
相も変わらず素直になれない二人だった。
「どうします?」
「『異能』がづかえんぞい」
獣人はリオールを封じるようだった。シロコーンは中々の手練れだがやや心もとなく、ニュプトルとニミーは経験が少ない。
「ミオニス、ここまで誰の『異能』で来たんだ?」
「あいつじゃ」
ミオニスが子鼠の一人を指さした。とすれば、それで再度逃げるだけである。こちら側としては、ここで戦う利はほとんどないのだから。
「よし、それじゃあ」
ミオニスに抱かれ、いささか以上に生気を取り戻したジョーノの頭脳は冴えていた。
「一発ぶちこんでから逃げようぜ」
「……おどれらしくないのう」
「そういうこともあんだよ、助けたもらった恩返しと、お前にいいとこ見せてやるんだ」
「……ばか」
軽くミオニスはジョーノの頭を叩いた。
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