第29話 危機
ジョーノは牢に戻された。セシュンが興味を抱いたとはいえ、軍に引き入れたい人材は多くその面会に時間を割かねばならなかった。そして、いかに共感したとは言っても、セシュンは他を押しのけてまでジョーノを優先しなかった。
「どうすっかなあ」
何度目かわからない言葉をため息に混じらせて吐き出しながら、ジョーノは寝転がっていた。『異能』が使えないのもそうだが、深刻なのはそれを憶えていられないことである。
刻一刻と記憶が曖昧になっていく、物覚えが良い方とは言えなかった、数えたり動作を覚えたりとそれまでの人生で使ってきた記憶術とは全く別なのだ。さらに教えられていた期間も短い、ミオニスの存在と拳骨で条件付けされていたために、それを離れるとたちまち薄らいでいくのだ。このままでは、いざ機会がやってきても肝心の『異能』を発動できない事態にもなりかねない。
「まずいよなあ」
進行を遅らせようと『異能』を口ずさんだり、ミオニスの真似をして頭を殴ったりもしているが限界があった。
「いいんですかいの?」
「やっちまえばそれでおわりにゃあ」
「静にするちゃ」
声が聞こえた、獣人とクワガタでない方の蟲人と、ロロムのそれであった。
「出ろい」
そのまま3人は牢を開けて、ジョーノを連れ出した。
ジョーノは敏感に感じ取っていた、おそらくこれは独断だ。その証拠に人気のないところにどんどん進むし、ロロムからは敵意の籠った視線をもらっている。
ロロムは部下を喪ったと言っていた、その敵討ちをしようというのだろう。
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