第28話 魔王の望み
「そうね」
「おう! 絶対やらねえ!」
「中々いい欲ね」
セシュンはジョーノを気に入った。それは彼の中に、己と同じ強い欲を見出したからであった。
セシュンが魔王を先代から奪っただけに飽き足らず、兄弟を殺しさらには人間の世界にまで支配を敷かんとしているのは、己を絶対的な存在にしたいという欲求に突き動かされているからである。
角鬼として小柄、何より『異能』を持ちえなかったセシュンの生は苦難に満ちていた。周囲も、そして父母でさえもセシュンに一切の希望を抱かなかった。
それは虐げられるよりも遥かに残酷なことだった、価値を見出さず、生死にすら頓着されない。つまるところは存在の抹消である。
セシュンは呪った、そして呪いを力へと変えた。肉体を鍛え、知略を磨き、それはついに他の魔王候補を打ち負かす程の力となっていた。その力に忠誠を誓うものを従え、血を分けた兄弟を殺し、名だたる猛者をねじ伏せた。
父たる魔王と母をその手にかけた瞬間は、今でも甘美な官能的とさえ言える喜びをもたらしてくれる。
だが、それで満足できなかった。己の力を知らしめたい、魔人の、全ての存在に己を刻みたい。その欲望を止める者は打ち倒すのみ。正しかろうと悪しかろうと、成し遂げてしまえば覆すことはできない。
無論反発は起こる、魔王は最も強い魔人でありながらも絶対ではない。『異能』や魔人ごとの生態でおのずと力を奮える場所は限られ、服従を求めるセシュンに対しては各種族から敵対の意思が示されていた。
それでもセシュンは止まる気がない。そしてこの細立からは、同じ匂いがした。
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