第27話 思い
長すぎる用足しにしびれを切らした二人が怒鳴り込むまで考えても、ジョーノは次の一手が浮かばずに止む無く連行へと戻っていった。ロロムが消えていたのは、油断させる作戦では成功だが、それを脱出に繋げられねば意味がない。ジョーノは無性に、ミオニスとネゴが恋しかった。
暫く歩いて、部屋らしき扉を嵌めただけの穴が並ぶ中にあったセシュンの一室に到着したとき、ジョーノは少々面食らった。魔王であるから、リオールのようにとまではいかないが他と隔絶するような部屋を想像してのだが、際立って大きい以外は他と変わらない、まさしく岩をくり抜いただけのそれであった。
「連れてきましたにゃあ」
「ご苦労なのね」
ついにジョーノはセシュンと対面した。
「お前が例の細立ちなのね?」
やはり奇妙な訛のある、角を持った青肌の角鬼(オーク)であった。ジョーノからするとかなりの巨体だが、同種の魔人の中では小柄である。脇に並んだ護衛役と思しき魔人たちが大柄なものが多いせいで、余計にそう見えた。
筋肉の塊のような肉体に、厳つい角と牙、初めて見る角鬼であったが、ジョーノが最も注目したのはその瞳である。溢れんばかりの知性を称えた光を放つ二対の眼球は、彼を一線を画す存在だと堂々と謳っていた。
ミオニスやリオールにもそういった雰囲気はあった、しかし、有無を言わさぬという点ではこのセシュンには及ばない。まさに不世出の者だけが持ちうる宝刀であった。
「答えるにゃ」
獣人に小突かれて、慌ててジョーノは頭を下げた。
「そう……でっす」
「聞きたいのは二つね、まず先の戦闘のあれ、死んだ奴らの『異能』を使ってたのはお前?」
「はい」
「じゃあもう一つ、なんでお前はいるのね? 細立なのに」
「あ~……それがわかんねえんです」
「わからない?」
そうとしか答えようがない、理由を知るためにそもそもジョーノは戦っていたのだ。そして、答えてから後悔した。せめてロロムらのように、愚者をさらけ出す真似をすべきだったのではないかと。
「なのに戦ってるのね?」
「そ、そうっす」
その時のセシュンの顔はどうとも表現し難かった。呆れているのか感心しているのかはたまた混ざっているのか全く別か。二人組はおろか護衛役でも、それは図れなかった。
「ま、いい。で、これからどうするね?」
「これから?」
「リオール、ミオニス、ニュプトル、ニミーは逃げたけど必ず殺すね。俺に協力するかね?」
「! やだ!」
またしても、ジョーノは誤った。ここは協力を約束して、『異能』が使える状況になってから逃げるのが最良の判断だった。しかし、ミオニスを敵に回す、其の一点が彼の冷静な判断力を狂わせていた。たとえそれが長期的に見て彼女に負をもたらすとわかっても、目先のわかりやすい悪意に激烈に反応してしまっていた。
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