第25話 虜

 眠りからジョーノが目覚めた時、そこが牢獄であったことにはそれほど動揺しなかった。殺されていないなら、セシュン軍によって拘束ないし拷問されると想像するのは自然な流れである。

むしろ、ミオニスとネゴの不在を予期と言うよりも確信しておきながら、いざ直面したことのほうが余程心に重いものを投げかけていた。

 とりあえず体を動かし、牢の内部を確認した。肉体的に痛むところはなく、同居人もない独房である。岩を削り出し格子をはめただけの荒っぽい作りだが、魔人を押し込めているだけあって頑丈極まりなく、ジョーノの力では揺らすことすらできなかった。

「……ダメか」

 そして、『異能』も発動しなかった。当たり前だが、何か封じる手段を設けているのだろう。

「さてと……」

 どうすべきかを考える。脱出はほぼ不可能、できても『異能』が使えると確定しなければ先はない。

「どこにゃあ?」

「あすこでにゃあ」

 と、魔人が二人ジョーノの牢の前にやってきた。一人は見慣れぬ魔人だが、もう一人は館で撃退したクワガタの女であった。

「ほい、でりょ」

「こんな細立がにゃあ」

 ジョーノは、ぼやく二人と新しく現れた熊の獣人に脇を挟まれて牢の外へと連れ出された。昆虫の面影のある二人は『蟲人(セクイトウ)』と呼ばれる種族である。

 牢の外には巨大な石造りの通路が続いていた。快適さは追求してはいないようで、リオールの館を知っているだけにその差異は大きく映った。牢と同じく、ただその機能を果たせればいいと言わんばかりの武骨さである。

 行きかう魔人の多くがジョーノに注目し、ともすると立ち止まって観察するものもいた。細立、人間という種族故かとジョーノは考えたが、事実は先の戦闘での活躍が知られている故だった。 

軍の目的であるミオニスら妹弟に次いで、奇妙な細立は話題に上りやすかった。その『異能』は何か、なぜ参戦しているのか、どのような者なのか、正体を巡って賭けの対象にもされていた。

 連行されつつ、ジョーノは『異能』が使えないかと試していたが一向に発動する気配がなかった。

 仕組み自体は簡単で、同行している熊の獣人が『異能封じ』の力を持っているだけであるのだが、ジョーノにはそういった『異能』があることがわかっても、彼女がそれを発動しているとは気づかない。ミオニスらが懸念していた、経験不足が浮き彫りだった。

「待つっちゃ」

 と、ジョーノたちを呼び止める亜人がいた。七色の髪を持った、美しい女の巨人だった。

「ロロム様」

「そいつが例の細立っちゃろ?」

「そよ、今セシュン様のとこに連れていくにゃ―」

「ロロムって切り裂き淑女の?」

 ロロムと呼ばれた巨人がきょとんとしてジョーノを見た。

「うちを知ってるん?」

「ああ、ミオニスに教えてもらった。『異能』は……『異能』は?」

 ジョーノはそこで詰まってしまった。早速覚えたはずの『異能』を忘れてしまっている。

「ん~……そ、いや……『切り裂き淑女』‼ そう、二つ名のまんまの『切り裂き淑女』だぜ‼ 念じたのを刃物にできる『異能』、弱点はその時に決めたものしか切れないこと。例えば木を切ろうとしたときに中に虫でもいると、どんな柔らかいのでも刃の方が砕けちまう! どうだ当たってるだろう⁉」

「あ、ああ……」

 ジョーノの勢いに、ロロムは若干引いていた。

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