第24話 離散

「お気をつけを、かなりのー」

「おりゃあ‼」

 シロコーンも含めた全員が抱いていた緊張感に、ジョーノだけが無縁だった。

 盗賊仲間の『異能』、透明な手を出す術でクワガタの魔人へ目つぶしを仕掛けると、間髪入れず『足元を這いずる』で押し流した。

「よっしゃ進むぜ!」

 無知と愚鈍故であるが、ジョーノのそれは確かな武器になっていた。

 そのまま一行は、次なる魔人に遭遇することなくミオニスの部屋へと突入した。中は大分歪んで潰れている部屋もあったものの、まだその体裁だけは保っていた。

「ネゴさん‼」

「じょ、ジョーノ……?」

 瓦礫の中から、青ざめたネゴがよろよろと這い出してきた。偶然できたものではなく、彼女が身を隠す場所として自分で寄せ集めたのだった。

 実のところ、彼女は何が起きているのかまるで把握できていなかった。部屋に引きこもってから館が変形を始めると、逃げる気力もなく逃避のための隠蔽を試み震えていた。セシュン軍も存在を察知はしていたものの、何の行動も起こさない細立に尽力するほどの余裕はなかった。

「どこいってたのよお‼ このばか!」

「いやだから戦争によお……く、苦しいっ」

 ネゴはジョーノに強く抱き着いた。彼は二人に圧迫される形になり、息をするのに難儀した。同時に、ジョーノはミオニスに似た奇妙な安堵感を再会で感じていた。これが何か分かれば、ミオニスを助け続けている理由が判明するのだろうと思った。

「っは、隠れておっただけのくせに御大層じゃのう」

「早く逃げるのよ! 終わったんでしょ⁉」

 ミオニスのネゴへの態度は冷淡である。ネゴも憔悴しきった中でも彼女への敵意は忘れていないのか、あくまで無視してジョーノのみへ話し続けた。

「おう、まずは逃げようぜ。ミオニス、逃げていいんだよな?」

「面目はたつのう」

「シロコーンさんにニュプトル、二ミーたちも一旦それでいいか?」

 全員が頷いた。戦場から離れることにおいて異論はない。

「じゃあ―」

 その時、突如壁を破壊して二人の魔人が一行に襲い掛かった。

「‼ つ、『翼なき跳躍』‼」

 ジョーノが選択した『異能』は間違いではなかった、成功すれば全員がここから瞬時に移動できたはずだった。しかし、焦りと技量の差が災いし正確に発動しなかった。

「……あれ? ……う、うそだろお⁉ ミオニス⁉」

 ジョーノを除いた全員が消えてしまっていた。おまけに、彼にはミオニス達がてんでばらばらの場所に『行ってしまった』と直感できた。

 その失策は大きかった、ミオニスがいたならすぐに再発動できた『異能』も欠いていては意味がない。次にどうすべきか結論付ける遥か手前で、ジョーノは魔人に『撫でられ』失神した。

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