第22話 奪還作戦

 『見上げる者よ』は絶対的な防御力とそれを利した攻撃力を備えている。硬質というよりも外部を遮断してしまう特性上、実質無敵である。しかし諸刃の刃とはよく言ったもので、同時に外部から何も侵入できず、そのままではいずれ中の空気が尽きて窒息してしまう弱点を抱えていた。

「ぬおおおおおおお‼」

「動いてませんよジョーノ様」

 さらに、操作に相応の力も必要だった。巨人族であったエルファンはともかく、ジョーノではその動きは止まっているようにしか見えない速さだった。

「く、くそ……しくじったぜ」

「あほ」

「ぎっ」

 ミオニスがジョーノを殴った。単純に腹が立ったので殴ったのだ、リオール軍は敗走の真っ最中である。流石に戦況を好転させろとは言わないが、自分たちが生き残るためにも失敗は許されない。

「あててて……死んじまうって言ってるだろ」

「誰のせいなんじゃ、これからどうするつもりよ?」

「っへ、失敗はしたけど今の一撃で頭が冴えたぜ。見てろ」

 ジョーノがそういうと、突然『見上げる者よ』が直立した。そのまま立ち続けもせず、ぐらりと前のめりに倒れていく。その先にあるのは、当然操られている館であった。

 館はそのまま押しつぶされはしなかった、意思を持っているかのように、必死に両腕を突き出して『見上げる者よ』を抑えた。しかし、流石に抑えきれずそのまま押し倒される形になったところで、ジョーノは『異能』を解いた。館が『異能』であることから並みの強度ではなかろうと咄嗟に思いついた策だったが、やはり荒くそして無茶だった。

「いいか! 逃げる機会は作ったぜ‼ 後は好きにしろ!」

 全軍にジョーノの叫びが渡った、『異能』を利用しほぼ全員に声の大小や言語の差異を超越してその叫びは伝わった。

 仲間と言うほどには彼はリオール含め魔人に情を抱いていなかったが、それでも最低限助けはしようとした。無論本気でやるなら全軍を移動させたり、防壁を張ったりと方法はあったが、あくまでネゴの救出を最優先としていたこともあり彼の考えはそこまで回らなかった。

 そしてそれが戦場に一瞬の空白地帯を生んだ。リオールたちには少々の感謝と大多数の混乱を、セシュン軍にはあの細立ちが何かを仕掛けるのではという疑念を抱かせたのだった。

「よし、いくぜミオニス!」

「もう死んどるわい。のう、逃げようの?」

「ダメだ、そうでも連れてって墓を作ってやりたいんだ」

 渋々、ミオニスはジョーノと一緒に館へと侵入した。というよりも、抱きかかえていることでジョーノを持ち上げている形なので運んでいるといった方が正しい。

「全く困った方々ですね」

「待ってくれ姉ちゃん」

 シロコーンもニュプトルも、そして二ミーたちもジョーノに続いた。打算もあったが、この我を優先する細立には何故かついて行ってみたくなる奇妙な魅力があったのだった。

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