第18話 細立の妙

「どうしたらいい? また攻撃か?」

「相も変らず劣勢よ、崩せ崩せ」

「よっしゃ、なら……」

 再びセシュンの軍が揺らいだ。しかし、物理的な行為でなく、どこか戸惑ったふうにお互いを牽制している風だった。

「? なんじゃ?」

「ラッスの『いがみ屋』だぜ」

 『いがみ屋』は、狙った相手同士に不和を生じさせる『異能』である。先々代の魔王継承戦で活躍したラッスは、ただすれ違っただけの相手を不倶戴天の敵と思い込むほどの憎悪を刻み込めたが、ジョーノでは精々根にある不信を増長させる程度しかできない。

 それでもこの場では有効である、協調行動が求められる全体防壁と攻撃においてずれが生じ始めたのだ。一応は防壁を出なければ被弾の心配がないはずなのに、リオール軍の攻撃が通り始めた。

こうなると連鎖的に穴が広がっていく。

「おどれは妙な『異能』ばっかり使うのう」

「うまくいってんだから言いっこなしだぜ」

 実際、ジョーノの活躍はミオニスの予想とは異なっていた。重点的に教えたのはあくまで破壊力に秀でた『異能』、それこそ魔人の歴史で魔王になったものやあと一歩だったものである。

 無論、それだけでなくジョーノが使用しているような『異能』も教えたわけだが、あくまで補助というか役に立てばとついでが大きい。ほとんどが、名こそ知られているが直接的な強さでなく、言ってしまえば賢しく王道でない『異能』で名を遺したものばかりである。

 正面きって圧し潰す。それを第一の誉とする魔人の精神と無縁なジョーノだからこそ、それを先入観なく使うことができていた。

「ミオニス!」

 自軍をかき分けてやってきたリオールにジョーノは驚いた。なぜならもう一人のリオールが、遠方で指揮をしているのが見えたからである。

「姉上の『異能』じゃの」

 ジョーノの驚愕を察したミオニスが説明を担当した。

「ありゃあこいつがやっとるんか?」

「おうよ、細立ちだからってバカにできん」

「ほおん……まあええ、こんのまま―」

「そりゃ無理じゃけ」

「あん?」

「て、てめえ離しやがれ‼ 俺を殺す気だろ‼」

 ジョーノは暴れだし、ミオニスの腕を外そうともがいた。『いがみ屋』の抱える弱点、生じさせた不和が自分にも伝染することで正常な精神でいられなくなったのだ。

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