第17話 劣勢の中で
「そいで何を使うんじゃ?」
「『山起きる』‼ 地面なら―」
「いいや、当然土にも防壁は貼ってある!」
「そ、それじゃあ……く、くそ! ミオニス! 殴るふりしてくれ殴るふり‼ いいかふりだぞ⁉ ふり‼」
「そいっ」
「ふりだって―」
石の拳がジョーノの頭にめり込んだ。悲鳴をあげたジョーノを倒れぬように抱きかかえ、ミオニスは彼が回復するまで待った。
「言ったのにい……あたたた」
「どうじゃ」
「お前な! だから死ぬかもしれないからやめろって……おっ?」
「んん?」
「待て待てえっと……『啜る虚ろ』! そうだ、崩せればいいんだろう?」
「やってみい」
「おう! 捩じりのソソの『啜る虚ろ』‼」
ジョーノが、セシュンの軍に向けて『異能』を繰り出すと、奇妙に魔人たちが揺らいだ。それは徐々に個々から全体に波及して、明確に『何かに引き寄せられている』ように見える程の乱れとなって現れた。
「なにしたんだよおジョーノ?」
「捩じりのソソだよ、知らねえのか?」
集中のため、ニュプトルの問いに声だけでジョーノは答えた。使用している『異能』の『啜る虚ろ』は、指定したものを強制的に『吸い寄せる』術である。
それ自体に殺傷能力はなく、華々しい戦火の割に単純な力を尊ぶ魔人の世では然程の名声を得られなかった。が、相手に重責を強い、なおかつその範囲が広大というのは強力である。
「体勢が崩れて防壁が薄くなっています」
「よっしゃ、この隙にじゃんじゃんぶち込んだるじゃ」
引力による集中の妨害、密集による肉体への負荷で生じた防壁の偏りを見逃さず、リオール軍は苛烈な攻撃を加えた。
それでも、数で勝るセシュンの軍の被害の被害は大きなものでなかったが、血気にはやった魔人が防壁を捨てて突進を図る姿があった。
「見てろよミオニス! それっ!」
ジョーノが『啜る虚ろ』を操作して、その突進を図った魔人たちを『上空へ』引き寄せた。見えないものに引き上げられた形になった魔人たちはそれに気を取られ、迫る飛来物への回避行動が遅れて次々討ち取られていった。
「どうだ!」
「あほう、あっちが弱くなっとるじゃろが!」
突進を企てた魔人はあくまで少数、本体とも言える最初に崩した大多数が立ち直りつつあった。ジョーノが突進兵へと『異能』を使ったことで、彼の欠点が現れたのだ。盗んだ『異能』の操作に難がある。
「あっ」
「目の前の雑魚に構うんじゃねえのう‼ 本隊じゃ本隊‼」
と、リオール軍の防壁が大きく揺らいだ。流れを引き戻すために、セシュンの軍が防壁を捨てて攻撃に重きを置いた一撃を叩き込んだのだった。
慌ててジョーノは再度『啜る虚ろ』で態勢を崩そうと試みたが、敵軍もすぐさま対策をとってきた。引き寄せる力が一定である以上、魔人によってはその影響に差が生じる。そこで大柄な魔人に砲手と防壁役を支えさせ疑似的な柱としたのだ。
再び戦力差が浮き彫りになったことで、ジョーノは引き寄せる方向を変化させ揺さぶりをかけたが無駄だった。もともと再現に難があり、変えるごとに力が弱まっていた。
「やめやめ、無駄じゃ無駄」
「く、くそっ」
ミオニスに言われてジョーノは『啜る虚ろ』を解除した。
「2回目で諦めて切り替えんかい、おどれには戦い方ちゅうのがわかっとらんのう」
「盗賊で奴隷だぜ? 無茶言うなよな」
ミオニスはジョーノの新たな弱点に気付いた、戦場という場に慣れていない。それは回数をこなせば克服できる類のものだが、その回数が稼げない状況に今はいるのだ。
「う~……ミオニス、文句は後で聞くぜ!」
ジョーノはミオニスに背を向けてそのまま強引にすり寄った。
「抱いてくれ!」
ミオニスはためらいなくジョーノを後ろから抱きすくめた。一度目は力加減がわからず絞め殺しそうになり、丁度良い塩梅を探るのに手間取った。
「これでええんかのう? 石に抱かれて嬉しいんか」
「安心すんだよ」
ミオニスに再びあの顔が浮かんだ。
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