第16話 開戦
そして開戦の時はやってきた。小雨の降る日の昼頃、リオールの宣言で全員が館の前に布陣させられた。セシュンの軍勢が雲霞のごとく膨れあがって見える。
「戦だあ‼ 死にたくなかったら戦うんだあ‼」
ミオニス含め、魔人たちは勇ましく応えた。だが、ジョーノにもわかるほどの劣勢は隠せそうにない。おそらく人員はセシュンの3分の1にも満たないだろう。
「あくまで先代魔王の御子同士の戦いですからねえ」
「にしたってよお、これが終わったら自分がやばいって他の奴は思わねえのか?」
「そこは魔王がそういう仕組みですから。最強の魔人が魔王です、だから無茶も通るしよほどでないと要求される方も逆らえない。
今回はその要求が大多数には向いてないのです」
「わっかんねえ!」
「ほら、来るから護れい」
「お、おう」
ほぼ同時に、両軍から砲火が放たれた。岩や矢といった馴染みのものから、炎や雷、はたまた形容しがたいありとあらゆる物体が降り注いだ。
そしてそれは、両軍の『異能』が作り出した防壁に阻まれ目的を果たすことなく霧散する。遠方からの攻撃で数を削りつつ接近し、本戦へと持ち込むのが魔人たちの基本的な戦い方だった。
「……ミオニス、もうちょっと傍に来てくれねえか」
「ん? なんじゃあ怖いんかのう」
「ああそうだよ、怖えんだ。来てくれよ」
「全く困ったもんじゃ」
言葉とは裏腹に、素直にミオニスはジョーノの側に立った。
「これからどうなるんだ?」
「こちらが薄いでの、向こうの攻撃が防壁を破るのが先じゃろ。そうなる前に混戦して、兄上を討ち取るのよ」
事実、撃ち合いではリオール軍が不利である。『異能』で攻撃するものと防壁がこの場合必要だが当然疲弊していく、となれば交代してそれを続行するのだが、その層の厚さは見るまでもなく明らかだった。接近戦に持ち込まねば、攻撃もできず丸裸のリオール軍は一方的に戦火にさらされることになる。無論セシュンもそれを承知しているから、接近させすぎずかといってこちらの攻撃が衰退しすぎない距離を保とうとしているのだった。
防壁といっても均一なものでなく、派手な音を出して相殺しているものから無音で攻撃自体を消しているようなものからで、ジョーノは意思疎通に苦労した。
「ミオニス‼ こっちから仕掛けるのは⁉」
「その分守りが薄くなるぞ、細立は脆いでのう消し飛ぶぞ!」
「こっちが不利なんだろ⁉ だったら攻めた方がいいんじゃねえか⁉」
「何か思いついたか?」
「お前のおかげでな! やっぱ傍にいると違う‼」
その時、ミオニスに一瞬浮かんだ表情を見ていたのはニュプトルだけだった。後日、その意味を問うたニュプトルは、ミオニスに絶対にそのことを口外するなと約束させられ、嗜好品のいくつかを口止め料に受けとった。
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