第12話 嵐の前
数時間後、『山起きる』でできた小山の麓に簡素な砦が築かれていた。ジョーノによって作り出されたもので、今ここにミオニスたちが詰めている。
館では、俄かにジョーノが注目を集めていた。細立という珍奇な種族と、歴史に名だたる者たちの『異能』を使いこなすという点があいまった結果である。反逆者でありながら、彼らの次の行動へと関心が高まっていた。
渦中のジョーノはどうしているかと言うと、相変わらずミオニスの厳しい鍛錬に晒されていた。
「む、無理だあ‼ 無理‼」
「なんじゃだらしないのお」
「無茶よ、『異能』を同時に使うなんて……」
試みているのは『異能』の同時利用である。選択肢が広まるわけだが、数度繰り返してジョーノは音を上げざるを得なかった。『盗んだ異能』も十全に扱えず、併用すると精度が大幅に低下してしまった。
「しゃあないのう、見張りに集中するか」
「けどよミオニス、それだって俺は頑張るけど穴はあるぜ。奇襲受けたりしたらどうする?」
「何とかするしかないの、偵察をわしらにやらせるちゅうことは見逃しは許さんちゅうことじゃ」
「そっか……仕方ねえ、気を張るか」
「それでええ」
この状況でもネゴを除いて一行が悲観に染まりきっていないのは、ジョーノの活気によるところが大きかった。悩みも迷いも後悔もするが、それを引きずらない姿勢は見ていて好ましいものだった。
それから数日、ジョーノは見張りと鍛錬に多忙な日々を過ごした。交代制とは言っても、実質その任務を果たせるのは彼を除けばシロコーンのみでありジョーノへの負担は大きい。加えて『異能』の鍛錬もあるとなれば猶更だった。
流石のネゴも疲労困憊のジョーノを誘惑はしなかったが、床を共にするのは続けた。
「逃げるのよ……それ用の『異能』あるでしょ」
「嫌だって……」
毎晩やりとりが続いた。ジョーノですら辛さにその提案に心奪われることもあったが、それでも線を踏み越えはしなかった。相変わらず理由はわからない、否、わからないからこそジョーノは戦っているのだ。
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