第11話 懲罰
風呂に入らされ、簡易な服を着せられたジョーノとニュプトル、そしてミオニスはリオールへの面通しのために廊下を歩いていた。
ニュプトルは毛皮と頑健な肉体で目立たないが、ジョーノはあざだらけ腫れ放題である。『足元を這い滑る』は地面を液状化して操る技だが、鉱物の類はそのままになってしまう。元の持ち主であれば移動に際してその危険物を避けておけるが、未熟なジョーノではそこまでできなかった。館にたどり着くまでの僅かな間に、鉄砲水に混じった土砂のごとく石を叩きつけられたのだった。
「いてえなあ」
「未熟者だからじゃ」
「でも思い出せた……いてて」
「それもわしのおかげじゃろがい」
「ああ、ありがとうよ」
「感謝は行動で示せの」
ニュプトルは無言だった、まず自分の状況がいまいち理解できていない。なぜこの細立は自分を助けたのか、そして姉であるミオニスと対等に話して、あまつさえあのミオニスが親しげなのはなぜなのだろうか。
「ニュプトル」
「お? お?」
「おどれは黙っとろの、わしが姉上と話すからの」
「お、おら、わかったよ」
幼稚で考えなしのニュプトルは、先を見通すことは不得手でもその場の権力者をかぎ分ける程度の頭はあった。
リオールの部屋に通され座らされた3人は、直接彼女から詰問を受けることとなった。
「まんずおめが悪いのはわかってんべな?」
「そりゃわかっとるわい」
「おめに聞いてね、ニュプトルに言ってんだあ」
ニュプトルは慌てて立ち上がって頭を下げた。
「ご、ごめんよ姉ちゃん」
「姉ちゃん言うでねえ、ほんに少しは考えて動けえ」
子供ながら、否、子供であるからこそニュプトルは気風に敏感である。
言葉にしたり詳しく説明はできないが、一人きりである自分の立場がゆるぎないものでないことは周囲の反応からもわかった。
ゆえに、魔人が他者に認められるための手段、即ち力を誇示しようと突発的に後先考えずセシュンの先兵に向かったことも彼の中では極めて順当な行為なのだ。救いがあるとすれば、それを咎められて良く考えれば相手の意図もわかる頭は持っていたことだろう。
「ほんでおめ」
「あ、はい」
次にジョーノが呼ばれた。
「なんで助けたんだあ?」
「……そうしたかったからっす」
リオールは唇を開きはしたものの言葉を繋がなかった。交渉を途切れさせたのはニュプトルであり、それを助けたジョーノも勿論反逆者だ。一方で、交渉自体は予想通りに身を結ばなかった。セシュンの目的は、狂ってこそいるが親族である自分たちを倒すことで一貫しており、それが言葉で揺らぐはずもないのだ。
ニュプトルの反逆は、それ自体咎めるべきものだが実害という点では皆無である。あくまでセシュンへの対抗手段としての連合とはいえ、弟への情も無ではないリオールとしては罰する気はないが、総大将としては許す訳にもいかないのだ。
「なら、そんでおめも罰せられても文句はねえな?」
「はい、でもミオニス……様は……巻き込んじまっただけです」
「……だったらおめも考えて動けえ。ニュプトルはミオニスの下に付かせる、面倒はおめらで見ろい。それとな、偵察おめらにやらせっからなあ初戦は勝たねとな」
それだけ言って、リオールは退出を促した。
部屋を出て早速、ジョーノはミオニスに話しかけた。
「ミオニス、あのな本当に……」
「謝るんはもうええ、聞きたいんは姉上の意図じゃの?」
「あ、ああ」
「何かあったとき切りやすいように、わしとニュプトルを一緒にしたんじゃ。反逆者じゃからの。それと先兵をわしらに押し付けた、見張りというがの、要は最初に兄上の兵と戦って勝ってこいいうことよ」
「勝つ?」
「そ、最初の小競り合いに勝って士気をあげろということじゃのう。どれだけ多かろうともな」
想像こそしていたが、重い罰に直面してジョーノは呻いた。つまりはニュプトルも加えて僅か5人で戦闘をせねばならず、負ければそのまま死である。
「部屋にいれんぞ、あの山の下に陣を張らんとな」
「え?」
「そうじゃろが、あそこで侵攻をすぐに見つけられるかの? 偵察っちゅうんはそういう意味じゃ」
ジョーノは何も言えなかった。
部屋に戻り状況を話すと、ネゴは過敏な反応を示した。
「い、いやよそんなの‼」
「なら逃げい、ニュプトルはわしに従うんじゃぞ」
「わかったよ姉ちゃん」
ニュプトルは従順だった、ミオニスに従わねばならないのはわかっている。
「住処をどうしましょうか」
「そんためのおどれよのう」
この場合、どんな『異能』を使うべきかという問いかけだと気づくのがジョーノは一瞬遅れた。
「え、えっとがあっ!
「油断するんじゃねえのう」
この事態を引き起こした責任も込めて、ミオニスの拳がジョーノの頭に振り下ろされた。
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