28、先生
高校三年生でクラス編成が変わって、良いことと悪いことがそれぞれありました。
悪いことは、担任になった先生が、一年生の時に私を「人間として最低」と言ったあの先生だったことでした。きれいごとばかり言う能天気な人で、音楽の教師だったために教科の相談をするにも頼りない存在でした。
「おうちの人の協力があるからこそ、今のあなたたちがいるんだってことに感謝しましょう」というのが彼女の口癖でした。私はその台詞が何よりも嫌いで、「おうちの人の協力って何? 妨害しかされてないんだけど」とYちゃんと愚痴りあうのが常でした。
良いことは、仲の良かった友達と軒並み一緒のクラスになれたこと。それから、学年主任と副担任となった先生が、とても素敵な先生だったことでした。
学年主任は一学年前から同じ、英語の先生でした。穏やかな雰囲気なのに、言葉が妙に鋭いことがあるのが印象的な人でした。人並みに質問や相談をしたことはあったけれど、特に深いかかわりがあるわけではありませんでした。それでも、一つだけ、深く心に残っている出来事があります。
いつかの学年集会、おそらく二年生の冬だったでしょうか。主任が全体に向けて話をしている時、何かの流れでこんなことを口にしました。
「正直言って、家が居心地良い人ばかりじゃなくて、家で辛い思いをしている人もいると思うからね」
有効的に学校を使って勉強をしてください、とかなんとか。
周りの生徒たちは彼の言葉にざわついて、「何急に」「重っ」と顔を見合わせながら笑っていました。
だけど私は、そのたった一言に、ひどく救われたような気持ちがしました。
不特定多数に向けられた言葉でした。ほんの些細なことだったかもしれません。それでも、わかってくれている人がいると思えて、私の心はすっと軽くなりました。
副担任は、とても格好いい女性の先生でした。国語の教師で、細身の体に、いつも鮮やかなスーツとハイヒールを着こなしていました。いかにも素敵に年を重ねたオバサマでした。厳しい人で、言葉がきついことも多々ある一方、生徒目線で考えてくれる一面もありました。生徒からは怖がられつつ慕われていました。
彼女は予約奨学金の担当も担っていました。何度か直にお話をしたこともあります。
サバサバしていて、凛としていて、とても格好いいこの先生のことが、私はとても好きでした。
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