第2話 魔法学園の卒業論文
トントン。私は教員研究室のドアを二回、軽くノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ゆっくりとドアを開け、静かに中に入る。部屋の中は読みかけの本で散乱しており、この部屋の主の性格を表している。魔法に用いる薬草のにおいがし、若干ほこりっぽい。
「やぁ、ピッピ君。」
部屋の主は私に声をかける。
「君付けは変じゃないですか?れっきとした女の子ですよ。」
「僕のクセみたいなものでね。学生はみんな君付けで呼ぶんだ。」
ちょっとくたびれた白衣に痩せ型、無精ひげの彼はシンドラー教授といい、私の所属するゼミナールの担当教員だ。魔法学園の教員の中では珍しく若干32歳という若さで教授職に就いている。そして、私はシンドラー先生と相談の約束をしていたのだ。
「それで?話というのはなんだい。」
「はい、卒業論文についてなのですが。」
「うん、君はまだテーマが決まっていなかったね。」
季節は四月。魔法学園の四回生である私は卒業まであと一年弱。といったところで、誰もが苦しむ卒業論文に、もちろん同様に私も頭を悩ませていた。特に私はこだわりが強いほうであるらしく、私にしか書けない卒論を書いてみせる、と躍起になっていた。
1年と時間に余裕はあるものの、テーマを決め、そこから資料を集め、自らの解釈を加え…etcとしていたらあっという間である。卒論作成に動くには早いに越したことは無い。
しかし、そう簡単に卒論のテーマがひらめく訳も無く、なにかいいきっかけになるのでは、と初年度生向けの「魔法応用学概論」の講義を傍聴したのが今日のことである。
そこで私は聞きなれない言葉を耳にした。
「魔法鍛冶」
私がこの講義を受講した3年前はシンドラー先生ではなく、別の教授が執り行っていたため、講義の内容そのものが変わっていたことを知らなかった。なるほど、初年度生向けの講義とはいえ、着想を得るためには動いてみるものだ、と思った。
そして、その事をさらに追究すべく、シンドラー先生の研究室を訪れた。と言うわけだ。
「魔法応用学概論で先生がおっしゃっていた『魔法鍛冶』というのはどういったものなんですか?」
「おや、魔法応用学概論に出席していたのかい?
感心だな。魔法応用学なんてまじめに聞いている学生がいるなんて思わなかったよ。」
「実戦に役立たないなんていわれていますが、私はそうは思いませんから。」
実践ではなく実戦。つまり、モンスターとの戦闘のことを言う。少し補足すると、私が通う聖ヨシュア魔法学園では卒業後、魔術師として冒険家と共に旅をするのが通例だ。
なので、戦闘魔法・回復魔法実技が重視されて、補助魔法や魔術研究など直接戦闘に関わることのない魔術は軽く見られている傾向がある。つまり、学生の
私がそのヒエラルキーのどこに所属しているかと言うと…、本来であれば最下層に限りなく近いのであるが、私の場合、ちょっと特殊な立ち位置に居る。
ともかく、どちらかといえば戦闘魔法は苦手である。と言うことがお分かりいただければよい。
「君は卒業後、魔術師にはならないんだったね。
戦闘魔法は不得意でありながら、魔術研究では大きな功績を収めている。この前の『武具に回復魔法を
「ありがとうございます。ですが、その話はまた今度にしましょう。」
「あぁ、話を戻そうか。えっと何の話だったかな。」
「『魔法鍛冶』についてです!」
私はつい、声を大きくしてしまう。
「あぁ、それだ。
うん、講義でも言ったように魔法鍛冶師の技法は秘匿性がとても高い。
と、同時にそれぞれの魔法鍛冶師の扱える金属は範囲が限られているのが最も大きな特徴だ。
金の鍛冶師は金しか、鉄の鍛冶師は鉄しか扱えない。という風にね。多くても、2,3種の金属が扱えれば優秀な魔法鍛冶師だ」
「そうなんですね。では、講義中に話していたレイヴンさんというのはどういった鍛冶師なんですか?」
私は率直な質問を口にする。
「あぁ、彼はね。どんな金属でも扱える魔法鍛冶師さ。」
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