猫と布団

志泉

第1話 入山規制

「な〜ゆちゃん!」

「くはっ!…」


銀色の髪のポニーテールをリズムよく動かすのは、私の同級生の山伏 姫ちゃん。いつも背後から気配を消していたずらしてくるの。なんでも、山奥の村が故郷で、学校が長い休みに入ると必ず帰省して、実家のお祭りとか村の行事とか手伝ってるとか。


「ねぇ、菜弓ちゃんは、夏休みはどうするの?」

「わたし?まあ、勉強は早く終わらせてどこか、ゆっくり過ごせるところに行きたいな」

「じゃあさ、あたしの村に遊びに来ない?」

「姫ちゃんの?山奥にあるんだっけ?」


姫ちゃんは、嬉しさのあまりに未だ膝かっくんしている状態からあたしの前に回り込み、両肩に両手をおいて満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう、菜弓ちゃん!」

「村って、車で行けるのかな」

「ネムラは…そうだね、長野県からならキャンピングカーとかでも入れるよ」

「へぇー、山道って大型の車は入れないことが多いから珍しいね」

「普通の道路は県道だから、通れないんだけど大型は私道だから入れるんだよ」

「私道?」


姫ちゃんって、もしかしたらお金持ちなのかな。私道が県道よりも大きいなんて普通ありえない。そんなことを私が思っていると姫ちゃんは予想しないことを言ってきた。


「私道といっても、村道だからあたしの家のものだけじゃないよ。村道は村の関係者以外を規制する関所みたいなところ」

「なんか、物々しいね。県道はどうなっているの?」

「県道は観光客用の入り口。神社がある猫山を村人以外から守るために村道を作ったの」

「ねこやま?猫がいっぱいいるの?」

「そうだよ。神様が猫だから」

「じゃあ、いつ行く?」

「こんどの日曜日はどう?」


姫ちゃんと私は三日後の日曜日までに夏休みの宿題を全て終わらせた。そして私は両親と3人でキャンピングカーに乗り、姫ちゃんが指定した村道入り口に向かった。そこには警備員が二人いて、門を守っていた。


村道入り口は、村に続く県道の途中にある蕎麦屋敷地内にあり、駐車場の奥に存在する。一見すると資材置き場のゲートのようになっているが、擬装された監視カメラや車重量を測る特殊な床やその他さまざまなセキュリティ設備が隠しており、得体の知れない雰囲気に包まれている。


警備員の一人が私たちの車に近寄ってきて、許可証の確認とドローンのような形をした不思議な機械を車の上に設置し、最後に許可証を車のフロントガラスに貼りつけるように指示してきたので運転手の母が外から見えるように貼り付けた。


「な、奈弓…ここから先は日本だよね…」

「日本だよ!お父さん…」

「…駐屯地のようなセキュリティなんだが…」

「お父さん、大丈夫ですよ。寝群村と猫山一帯は、猫山国立公園の一部なんですから、生態系維持のためにそうしてるんですよ。そうでしょ?なゆみ」

「…たぶん」


入山規制している理由を私たちはこの時、深くは考えなかった。

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猫と布団 志泉 @shisen

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