第7話
一ヶ月が過ぎ、大川の要求は日増しに厳しいものになっていった。それに伴い藤本の出勤の足は次第に重くなった。
月末になって経理から給料の明細が手渡された。封を切って中身を見ると、藤本が計算していたよりも多い金額が記されていた。変だな、と思って明細を一つ一つ確認してみると、社会保険と厚生年金の被保険者負担分が差し引かれていない事に気が付いた。
藤本は嫌な気分がしたので、その足で村井の席に行ってその事を尋ねてみた。
幸い席についていた村井は、藤本から明細を見せられ、
「これは経理の間違いじゃないんだが、うちの経理はやる事が多すぎて、藤本さんの社会保険加入が遅れてるんでしょ。それとも、被保険者証すでに受け取りましたか」
藤本は、そういえばまだ受け取っておらず、最近、妻にその事を尋ねられた事を思い出した。
「そう言えば、まだ受け取ってませんね」
「申し訳ない。すぐ処理するよう経理に僕から言っておきます」
と言ったきり黙ってしまった。
藤本は(何か他に言う事はないのか)と心の中でつぶやくと村井を睨みつけた。
重い足を引きずるようにして戻って行く、その後ろ姿に村井の視線を感じた。
心の中に何か冷たいものが流れた。
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