第13話 救うんだ

 僕の右の拳には、まだシオリを殴った感触が残っている。僕は熱くなった拳を震わせていた。


「し、四季島シキシマくん……」

「アイヴィーさん、無事でよかった」

「それより、君の……」

「僕よりシオリを!」


 アイヴィーさんの言葉を遮り、倒れているシオリの元へと近づいた。気を失ってはいるが、呼吸をしている。


零鬼レイキ……」

〈なんだ? 四季島ユウ〉

「宿主を殺さずに【宿妖しゅくよう】だけ取り除くことはできるか?」

〈……〉


 零鬼は少し黙った。


〈やってみよう。そいつの体を仰向けにするんだ。そして、心臓の付近が見えるように服を剥ぐんだ〉


 言われるがまま、行動する。


「これで?」

〈この少年の魂と宿っている妖怪の魂を分離させる。失敗したら……〉

「わかってる」

〈そうか……では始めよう。心臓のあたりを覆うように手を当てるんだ〉


 言うとおりにする。すると、その手に引き寄せられるように球体がシオリの体から出てきた。ほんのり温かい。ゆっくりと持ち上げ、てのひらの上に乗せた。


〈そいつが『魂』ってやつだ。人によって色や大きさなんかも異なる。同じ形の魂は、1つだって存在しない〉

「なるほど……。このまだらになっているのが妖怪の魂とくっついてるってことか」

〈理解が早いな。そうだ、その斑の部分を取り除いてやればいい〉

「どうやって取り除くんだよ」

〈使うのは、その爪だ〉


 僕は左手にシオリの魂を持ち直し、自分の爪を確認した。


〈”妖淘師ようとうし”が使うようなモノは、妖怪を殺すためのモノでしかない。だから【宿妖】は宿主ごと殺すしかないと思っている。妖怪の爪や牙なら、妖怪の魂を削ることができる。無論、人間の魂も削ってしまう危険性もあるがな〉


 僕がシオリを救うんだ。


 早く、そして細やかに、魂を削る作業を進める。幸い、こういう細かい作業は慣れている。


 ――数分後


「できた……!」


 斑があったシオリの魂は、キレイな色を取り戻した。あとは戻すだけだ。


〈慎重に、ゆっくりと戻すんだ〉


 取り上げたときと同じように、ゆっくりと魂を運ぶ。シオリの胸に魂は沈んでいった。

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