第5話 隠れていたのは

「ちょ、待ってくれよ!」


 草むらから現れたのは、シオリだった。両手を前に突き出し、やめてくれというジェスチャーをしている。


「シオリ!? なにしてんだよ?」


 僕はアイヴィーさんの横をすり抜け、シオリに駆け寄った。


「いやぁ、ユウの後ろをつけてたら、まさか転校生といい感じになってるとはねぇ」


 シオリが茶化す。


「い、いい感じとか! そんなことないよ! あ、アイヴィーさん、シオリの言うことは気にしないで! いつもこんな調子だからさ……」


 アイヴィーさんは怒っているのか、こっちをにらんでいる。


「シオリのせいで怒ってるじゃんか!」


 小声でシオリに抗議する。


「だから、アイツとは関わるなって言っただろ」


 シオリは僕の腕を掴んで立ち去ろうとする。


「止まりなさい」


 アイヴィーさんは、さっきと打って変わって低く、冷徹な声を出した。


「アイヴィーさん……?」

「アイツはな、”妖淘師ようとうし”ってヤツだ。妖怪を殺すだけが趣味のヤバイやつなんだよ」

「よ、ヨウトウシって……? というか、なんでそんなことを……」


 シオリは困惑する僕を引っ張り続けた。次の瞬間、発砲音がした。シオリの横の地面が小さくえぐれた。


「次は当てるわよ」


 武器と思われる、刀状のモノの先端ををこちらに向けながら言い放った。本気の目をしている。


「アイヴィーさん、危ないよ! シオリもね、話をしようよ」

「ワタシは、そいつが言った通り”妖淘師”よ。妖怪を淘汰とうたするためだけに生きている。だから分かるの。そいつは妖怪よ」

「え? そんなワケないじゃないか! シオリとは小学5年からの付き合いなんだから」

「なるほど……四季島くん、情報をありがとう。あなた【宿妖しゅくよう】ね」

「何を言っているんだ転校生。これ以上、ユウを巻き込まないでくれ」

「それはこっちのセリフよ。【宿妖】は長期間、じっくりと体を支配していくの。本人は全く気が付かない間に侵略を続け、気づいたときにはもう手遅れ。今のうちに排除するわ」

「もう! シュクヨウとかヨウトウシとか止めよう! 落ち着こうよ! ……ね?」


 勇気を振り絞って叫んでみた。時間が止まったかのように静かだ。


「もう2つ、そいつが妖怪だって証拠を教えてあげましょう。まず1つは匂い。香水をつけて、上手く匂いを誤魔化しているようだけど、そんなのは無駄よ」

「香水って……」


 確かに最近つけ始めてたけど……。

 チラッとシオリを見るが、黙ったままだ。


「もう1つはここにいること」

「ここって……高天ヶ原たかまがはら神社のこと……?」

「えぇ、そうよ。ここには、夜間は一般の人が入れないようになっているの。ここに入れるのは”妖淘師”か”妖怪”だけ」

「え……ぼ、僕は……?」

「正直、あなたはわからない。だけど、妖怪じゃないってことはわかる」

「なんだそりゃ。ユウがここにいる時点でダメじゃないか。ユウと俺、まとめてほうむるか?」

「四季島くんは妖怪じゃない」

「それは当てになんねぇって言ってんだよ!!」


 シオリが怒鳴るなんて、初めて見た。それにあの目。シオリは妖怪じゃない、という思いが揺らいでいた。

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