二十四羽 さくらんぼしちゃうぞ

 皆で、楽しく美味しいお夕飯をいただいた。黙々と食べていたので、妄想に走ってしまった。


 砂風呂で砂浴びをしているのを想像してしまうな。うおお! いやらしい意味は全くないぞ。うさぎさん達のこてっとなったり、穴を掘ったり、その砂を手でぐいぐいと押したりして、楽しいのだよ。心の武士に誓って言うよ。変な考えなんて、蚊でも止まってなさい。


「ユウキくん。この間のよりも美味しかったよ。もしかしたら、日々、ガラパパパ諸島的進化をしているのではないかい?」


 ユウキくんが、にやにやした後で、ほっこりとした表情で迎えてくれた。

 

「キノコン研究家の第一人者にとって、最高の賛辞だよ。ボクも腕によりをかけた甲斐があるな」


 暫くは笑顔のまま黙っていたかと思うと、思い詰めた顔を起こした。


「真血流堕くんは、キノコンの胞子にとらえられ、まゆの中から出られなくなってしまったのだよね」


 ユウキくんの額に汗が玉のようにすべる。顔色にもかげりがさす。


「す、すまなかったよ。パラダイス定食は、キノコンの出汁が決めてだったね。気分を害しただろう? ごめんえー。まちりゅだくん。しゃしゅけくん」


「大丈夫だよ。ユウキくん。俺はもう気持ちを切り替えたぜ」


「私もそんな心の狭いこと言わないですよ」


 ユウキくんが、ハンカチで、涙を拭いた。よほど、ショックだったのだろうな。デリケートで優しい子だ。


「他にどんな得意料理があるのかな」


「次に、皆が美味しいと言ってくれるのはね、やはり、カレーとライライパンだね」


 面を上げて笑い直してくれた。よかったよ。


「ドクターマシロのゲームセンターで、コイン型をしたチョコを取るゲーム機があるの知っている? そこで、チョコをゲットして、カレーの隠し味にいい風味となっているよ」

    

「それは、後で俺もやりたいな。食べられるのっていいね。それから、俺は、母のカレーライスって料理が大好きなんだ。あの味を作れるようになりたいと思っているんだよ」


 ユウキくんは、細々と働き、食べ終わった食器をおかもち風のものにしまっている。お嫁さんにしたら、家事や心配りができるいい子だよな。あ! 浮気はしていないぞ。お嫁さんにするのは、この地球という大地のどこかの人間だ。ん? 待てよ。うさぎさんは、どうするんだ?


 ぼんやりとしていたら、真血流堕さんに肘でつつかれてしまった。


「時には、亡くなったウミガメが打ち上がることもある。何故か、この辺りのウミガメは毒を持っているのに、毒を取り除かれた痕跡もあり、食べたあともあるのさ」


「それは、また、不思議な話だね」


 竜宮伝説とか関係あるのかな? ああ。どうした俺。非科学的だぞ。本来、研究職を目指していたのではないか。新宿にあるまいたけテレビもよかったが。ま、まあ。真血流堕さんと出逢えたしね。


「それ位かな。元々仕事だったし」


 ユウキくんは、ウミガメの話をしながら、片付け終わった。三つのおかもち風の入れ物にふたをする。


「うん、仕事か。パラダイスでの仕事ってことだよね。美少女うさぎさんとしての」


「ボクは、メイドカフェのボーイさんをしていたのさ。日本にほんのアキバで」


 アキバって、秋葉原あきはばらのことだよね? その前に、日本って言ったよね。


「どどどどどど、どうなっているの?」


「どうにもこうにも、ただのボクの黒歴史だよ。皆、無駄に威張っていて、嫌だった……」


 黒歴史とか仰ってますけれども。


「佐助くんが、ボクが初めてみる人らしい人だと思うよ」


「え! 俺なんかでいいの?」


 むっ。ここで、女神ヒナギクの視線が刺さる。あいたたた。ばしっと打ち返してみた。今度は、ウインクが飛んで来た。やっていられませんよ。


 まあ、ユウキくんの話に飛びつくのは、尻軽だよな。女神ヒナギクの言いたいことも分からないでもない。


「ではでは、やってみましょう。ぴぷぺぽぽぺぷぴくるくるる。魔法少女秋葉薔薇あきはばらになーれ」


 何かのスティックを持っていた。ハートにカッコよくラインを描くと、バラバラバラバラとバラの花びらがユウキくんをくるくると包む。


「お嫁さんにしたいなら! 魔法少女秋葉薔薇、降誕!」


 バーン!


 ちょっと内股なキメポーズもキレッキレに決まっています。衣装は、ボーイッシュだけれども、フェミニンさもおさえた、メイドルックとなっております。はい。


「きゃー。ユウキくんの魔法少女姿、久し振りなのですけれども」


 女神ヒナギクは、知っていたのか。


「相変わらず、照れ屋さんだね」


 ドクターマシロの分析は当たっていた。


「ユウキくん。恥ずかしそうにしていると、か、か、かわいいのですが!」


 俺も思わずぐっとなっていた。頬のさくらんぼ色がたまらなく似合う。キミにメイクのチークは要らないよ。


「これは、これは、本当に魔法ですね。このままうさぎさんになれるのでしょうか?」


 真血流堕さんの突っ込みは好きだな。ははっは。


「モチ。モチを食べたいの……」


「どうしたー! ナオちゃん、場違いな」


 俺が突っ込まないと魔法少女が凹んでしまうよ。


「ミコも、おモチを食べたいですの」


「ミコさん?」


 なんのこっちゃか分かない。


「佐助殿。お正月となりました」


「何だってー! クリスマスが来たばかりではないか!」


 はあ、はあ、俺を誰か癒して欲しい。こんな時こそあれだな。


「おつかれーしょん!」


 はい、真血流堕さんお疲れ様です。


 ◇◇◇


 皆で、初日の出を見に行こうと言う話になった。さっき、日の出を見たばかりな気もするが。どんな時間が流れているのだろうか? 俺の佇むほとりは、どこだろう。


 ともあれ、皆のきらっきらと輝いた笑顔が並ぶ。


 結構あたたかいガラパパパ諸島で、女神ヒナギクのビキニも相変わらずまぶしい。白衣もいいぞ、ドクターマシロよ。ナオちゃんは、寒いと言って、もこもこなのに、もこもこセーターを着て来た。ユウキくんは、魔法少女秋葉薔薇のお衣装だな、勿論。変身にもエネルギーがいるようだし。ミコさんは、スタンドカラーの中華風の服に着替えている。


「佐助先輩、初日の出を見に来たのですよ」


「あや。失敬。失敬」


 何でか、もうクリスマスも過ぎて、お正月か。少なくとも。腹時計でそうなっているのかな? ああ、だったら、クリスマスケーキとか食べ損ねたぞ。


「ユウキくん、今度、ケーキを食べたいな。佐助おじさん甘えるの図」


「ぱぺぴぽぽ! 後程にいたしましょう。魔法少女秋葉薔薇、ハートに花びらずっきゅんきゅん」


「何を甘えていらっしゃる、かめさん」


 真血流堕さんもすっかり元気になったらしく、びしっとおでこをつつかれてしまった。


「何で俺が亀な訳?」


「だって、皆、うさぎさんだから」


 分かりましたから、むくれるの止めてくださいな。可愛い俺の真血流堕さん。


「これから、どうしますか?」


「お休みになられるのなら、佐助様と真血流堕様は女神ヒナギクのサロンへいらしてくださいね」


「そうさせていただきます」


 真血流堕さんはいいが、俺だけダンシなので、まあ、何もしないのですが、それがマナーと言うものですよ。女神ヒナギクのサロンにお泊りさせていただくことになった。俺へのCHUは、大丈夫か?


「二ツ山から迷いの林を通らずに行けるようだよ」


「それは、ありがたいですね。もう、行く気がしません……」


「元気を出して。な」


 と、いちゃいちゃしていたら、もの凄い怨霊のような音量で迫って来た。


 CHU・CHU・CHU……!


 これは!

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