十八羽 女湯からすべっ
ミコ=ネザーランドさんと俺は、そろそろナオちゃんのお風呂のある二ツ山へ着こうとしていた。ミコさんは、相変わらず浮いて泳いでいる。
うさうさ。うさ?
「ほうほう。ネザーランドドワーフラビットになってしまったけれども?」
うさうさうさううう。
「皆の前に出るのが恥ずかしいと」
俺は、何故、うさぎさん言葉が分かるのだろうか?
うーさ。うーさ。ううう?
「飴? 飴は好きだが。ん? 雨か。はいはい。降ってないよ」
うさー!
「傘が欲しいの? これは、俺と真血流堕アナのだけれども。ユウキくんが、ミコさんの傘を持ってくれているよ。朱色の地に赤い円がある蛇の目傘だよ」
うさぎさんのミコさんが俺の懐に飛び込んで来た。
うさーさー。
「おいおい。甘えん坊さんだな。ミコさんは」
よしよしと、あの時の彼女のように、抱っこをして撫でてみたら、ふいっと泳いで逃げてしまった。
うさうっさ。
「ちょっとご立腹かな? 甘えん坊さんじゃないって?」
バリバリバリー!
「あー。痛いでしょ。ダメだよ」
俺は、抱いていた腕を引っ掻かれた。そこまで怒るとは、うさぎさんだからないと思っていた。けれども、心はミコ=ネザーランドさんなのだよな。
「ごめん。前言撤回。俺が悪かったよ」
うっささー。
「許してくれれて、ありがとうございます」
◇◇◇
ナオちゃんのお風呂が暁に輝いている。日が昇る前のほの暗い中、見えている。
真血流堕アナが精霊のようだった……。
今さっきのことが、遠い昔のことのようだ。
「そうこうしている内に、とうとうナオちゃんのお風呂についたよ」
もきゅーん。
「なーんで、俺の懐に飛び込んで来るんだよ。構わないけれども、さっきは怒ったじゃないか」
うさうさ。
「皆と会いにくいのか。分かるよ。暫くぶりで、理由も言えなかったのだものな。皆にうさぎさん言葉が通じるかどうか、それも心配だよな」
男性と女性の別々の入り口から、灯りがもれている。らくだのコブのような二つの山ににこにこ笑顔のようだ。ナオちゃんって、とても口数が少なくて、気も弱そうだけれども、この皆のお風呂をうまくやりくりしているのだから、社交的なのかも知れない。
皆そうだな。女神ヒナギクも最初から俺に迫って来る程、包み隠さないタイプだし、ユウキくんも料理を明るく提供してくれる。ドクターマシロは、結構話し掛けてくれたな。皆、いい人だ。
真血流堕アナだって、ちょっと三神家のお嬢様だったから、愚かなぼんぼんに痛いめにあわされたけれども、いい仲間だよ。俺なんかに目を掛けてくれて、まいたけテレビで鍛えまくってくれたのだからな。
おっと、長考してしまった。
「ミコ=ネザーランドさん。いざ、行かん!」
うさー。
い、意訳すると、うざいとも聞こえる。
「明るく行こうな。ミコさん」
◇◇◇
左側の男と書いてある方の木戸をくるぐと、右の番台には、ナオちゃんはいなかった。脱衣所は別々だが、混浴だし覗いてみることにした。勿論、下心はない。
すべっ。
すべべっ。
入り口から滑ってしまった。
「何だ、これは? タイルではないのか?」
先の方に、砂場が見えた。砂が、もそっもそっとうごめいている。
「砂のお風呂か。うーむ。もそもそしているぞなもそっと」
既に何を言っているのか分からない。お湯はどうしたのか? ガラパパパ諸島のこんなビーチもある不思議な島で、体を流せなかったらどうするのだろうか? お湯は抜いてあるのか?
ばさばさっ。
砂地のどこからか砂が掘り出されて飛んで行っている。
ばさばさっ。
再び、砂地の下から出されている。
「おお? ブルドーザーか?」
その砂を押している何かがいた。
うさぎさんだ! 白いうさぎで、片目が黒いぶちのあるキュートなうさぎさんの両手だった。おおっと、珍しくホトと言ううさぎさんだよ。俺の彼女のお陰で、ちょっとうさぎさんのお名前に詳しくなったからね。
もきゅ!
「気付かれたか」
俺は、にやりとした。途端に、うさぎさんはさっと隠れてしまったよ。
「んー、これはこれは」
何だか、楽しいことになって来たな。お、あっちだ。あっちも何かしているぞ。
もぞもぞもぞもぞ。ぽん!
「出て来たね。もぐりっこさん」
いわゆる、パンダウサギと言うダッチが顔を覗かせた。顔の両目周りと上部と背中に掛けて黒く、後は白い。一般にミニウサギともされて売られている場合もあるが、このタイプが多く、廉価だ。
「いたいたー」
砂に背中からダイブしてすりすりしているうさぎさんがいた。あああ! 何て艶やかなホーランドロップイヤーラビットでしょうか。鼻周りに茶のぶち模様があり、顔も体もまだらな茶がある。耳に特徴があって、上へ向かないで、下へ、たらーんと垂れているのが、何とも言えない可愛らしさがあるのだよね。お耳は茶だね。
「もう一羽いたのか!」
パンダウサギの側に、ライオンラビットが、ぼけらーっと毛玉の魔女のようになって遊んでいた。
うさぎさんは、後ろ足で地面を叩くことがある。足踏みと言うらしい。他のうさぎさんへの合図なのだ。パンダウサギさんが始めると、他のうさぎさんも始めた。
ダン! ダン! ダン! ダン!
「何て可愛いうさぎさん達だこと。俺に何かのメッセージだろうか」
俺もデレてしまった。癒されるー。ほっこりするね。もう、ここに彼女を連れて来られたのならよかった。
四羽のうさぎさん達が、俺を一斉に見た。何にも悪いことしていませんよ。視線が、ちくちくするなー。
もきゅっと俺の懐から、ミコさんがネザーランドドワーフラビットになったままの姿で飛び出す。
砂場にいた四羽のうさぎさんが、こっちへ飛び跳ねて来る。ぴょんぴょんぴょーん。勢いがあるお陰で、俺は、ひっくり返り、後ろに手をついた。
「お、恐ろしいうさぎさんだこと!」
それ程、恐ろしいとは思っていない。ノリだよ。
何となく、冗談めかして一緒に遊んでやろうかと思った。今日は、何の日だろう。常夏のパラダイスにも訪れるであろうお祝いにすることにした。
「メリークリスマス! うさぎさん達。キュートで萌え萌えのもっふもふ。デレます。ここで、一曲お祝いを」
らー。
俺は、クリスマスソングを歌った。
「何か、いけなかったか? 悪かったよ。泣かないでな」
うさうさうさうさうさ。
うさうさうううさうさ。
「うん、俺は、さっき、ミコさんの心があんなに分かったのに、今は、どのうさぎさんの気持ちも分からないや」
「そうだ。クリスマスには、贈り物だな。何か作ってみるよ」
砂場で、雪だるま超ミニバージョンを五つ作った。
「どうかな?」
うさ!
うささ!
うーうさうさ。
何だか、泣いているようにも聞こえた。
「ごめん。泣かせてしまったかな」
うーさ、さうさささ。
「ゆうしゃ、さすけさま? 勇者、佐助さま……? では、このホーランドロップイヤーラビットは、女神ヒナギク=ホーランドロップか!」
なる程。
ホーランドロップイヤーラビットは、女神ヒナギク。
ホトは、ユウキくん。
ライオンラビットは、ナオちゃん。
ダッチは、ドクターマシロ。
この島の裏の顔を知ってしまった。
ううう・ううう・ううう!
ううう・ううう・ううう!
「わーかったよ。CHUの曲だろう? うさぎさんになってもするのか? 女神ヒナギクよ」
うさー!
「お、怒るなよ。本当だろう?」
ホーランドロップイヤーラビットを撫でた。多分、女神ヒナギクだろうよ。勘弁。
「え……。なら、誰なの?」
新しい疑問も交えての。
「おつかれーしょん!」
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