普Ⅱ

 例の球体に七美の顔が映った。

「こんにちは、七美さん。あ、お出かけ中でした?」

『うん。さっき徳川さんのところに挨拶行って、今その帰り道』

「じゃあやっぱりお社は東照宮の中に建ったんですね」

『うん。木彫りの像に覆面被せて拝んでるみたい』


「へー、聖骸布的な?」

『みたいよ。何か縁の物を残した方が良いって言われたから置いてきたんだけど……別の物にすればよかったかな。ウチの一族挙げて覆面作って、社の隣りで商売してる姿を見るとさ……』

 小さなため息を漏らし、七美は尋ねた。


『それで、どうしたの?』

「特に何って事はないんですけど……、神様になった気分はどうかな? と思って」

『まあ……そりゃ悪い気はしないよ。ただ、ここに居るのって基本的にみんな神様だから、思ってたほどの特別感はないね。しかもすっごいウジャウジャ居るし』


「でも神様なんですよね?」

『そうだけど……、あたしらが知ってる神様なんてみんな大物中の大物で、あたしなんて神様って括りで同列に並べるのも失礼なぐらいの底辺神だよ。超有名人とそこらの一般人を人という括りで同列に扱うようなもんだよ』

「なるほど……」


『そんな事より、あんたの方はどうなの?』

「お陰様で頭痛も消えてスッキリです! 倦怠感とかも無くなって、毎日快適です」

『そっか、底辺でも神になった甲斐はあったかな』

 そこへ、大きなウサギが割り込んだ。

「お? ケヤキナナミか。無事に天界の住人となれたようじゃな」

『お陰様で』

 そう言って、ウサギの肩に留まる目玉へ視線を滑らせた。


『本当に復活できんだね』

「……」

「そう、そう、目玉さんを転移させたら部屋中灰まみれになって大変だったんですよ……」

「ただのニンゲンに負けるとは情けのないやつじゃ」

「……」

「その灰を掃除させられたのは私なんだからね……あんたも反省してよ。もうちょっと形を残しといてくれたら楽だったのに……」

 っとリンが割り込んだ。


『いやアンタはそれをちょっと狙ってたでしょ』

「まあね。久々に大笑いしたよ」

 笑うリンと七美へ、目玉は恨めし気に呟いた。

「笑い事じゃねぇです……時間が時間なら消滅してたんですぜ」

『それはそうと……、あのゴイツ人もそこ居る?』

「筋トレの時間なんだってさ」

『筋トレ……』


「各国の軍の装備を収集した部屋に篭ってニヤニヤしてさ、暇があればお手入れと筋トレ」

『ふーん……』

「そう言えば……、ぼっちゃまもケーラーさんの部屋によく出入りしてますよね?」

「うむ。ジュウやセンシャの造形を見ていると、なぜだかワクワクして来るのじゃ。アレらの形状は何か魔法的な要素があるのやしれぬな」

「男の子はそういうものなんです」

 サチコは膝に載せたウサギを引き寄せ、スリスリと頬を擦り付けた。


「ウチの弟も集めてたな……。模型だけど」

「弟さん居たんですね」

「ええ、この間私の事を英雄だって語ってる姿をテレビで見ちゃって……思わずドゲザしました」

「ハハ、悪魔と取引したダイショウじゃ」

 そんな次期魔王ファミリーの様子を眺め、七美は頬を緩めた。

 

「それで、どうじゃ? ケヤキナナミ。天界の暮らしは」

『そうだね……、メジャーな神様達は事ある毎にやれ何とか祭だって忙しくしてるけど……あたしみたいな底辺は基本的にヒマだね。可もなく不可もなくってところかな』

 そう言って、口元にニヤリと笑みを浮かべた。


『ま、普通――』

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立花 葵 @tachibana_aoi

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