人事権
球体に幸子の姿が映し出された。
「サチコさん……」
「幸子……」
『七美さんお久しぶりです! ちゃんと避難してくれたかずっと気になってたんですよ! 本当に無事で良かったです!』
「あんた本当に生きてたんだ……」
『ええ、死にかけましたけど……まあ、ご覧の通りです』
そこへ、ヌッとパンダが割り込んだ。
『フムフム、これがケヤキナナミか。服のシュミがよく似ておるな』
「まあ……そちらの第一眷族を参考にしたので」
『サチコ、お前もたまにはこういう色のものも着てみてはどうだ?』
『いや〜、私にはちょっと可愛らし過ぎて……』
『だから言うておるのだ。我は似合うと思うぞ』
『も〜ぉ、ぼっちゃまぁ〜!』
ヨダレでも垂らしそうな笑みを湛え……パンダを膝に抱えて頬ずりをするサチコを冷めた目で見つめた。
「……」
ズイと、七美はリンに顔を寄せた。
(おい……本当にこのバカップルが魔界の№2と№4なのか?)
(ちょっ――それ絶対言わないでよ。とばっちり食うのはウチらなんだから……)
(いえ、多分あっしがモザイクに包まれやす)
いつの間にか、筋肉目玉が隣に座っていた。
「おわ!」
飛び退いた七美へ、筋肉目玉は美しい座礼を返した。
「驚かすつもりはなかったんですが、話の流れで……つい。失礼しました」
「あんたどうやってきたの?」
「へへへ、実はずっと荷物の中に潜んでおりやした」
「あっ! 悪魔臭いって言ってたのって……」
「肝が冷えやしたよ……。あれはかなりヤバイですぜ。まだあんな力を持った奴が残っていたとは驚きです」
「で、何なのよコイツ……。3番目?」
「ぼっちゃまの
「やけに強調すんのね……」
「あっしの誇りでございやす」
『あれ? 目玉さんも一緒だったんですか?』
と、ようやくこちらを向いたサチコが割り込んだ。
「ちょいと荷物に隠れまして……」
『七美さんに迷惑がかからないようにして下さいよ。目玉さんは見られたら言い訳のしようがないですからね』
「へい」
なんだか活き活きとした幸子の姿に、七美はホッと笑みを浮かべた。
「それで……、用件は済んだの?」
「ああ……そうですね。サチコさん。他にありますか?」
ともあれ目的を達し、リンとケーラーもホッと息をついた。
『七美さんの無事が確認できて、私は満足です。七美さんは何かありますか? この辺に悪魔を出現させて欲しいとかあったらできますよ? 出てきたところをサッと退治して、さらなる信者を獲得! とか』
「いや……これ以上増やしたくない」
そう答えた七美であったが、何か思い出したらしく携帯を取り出した。
「そだ、写真一枚撮らせてよ。今これしかなくってさ、使い難いんだよね」
『ちょっ――いつの間に撮ったんですか?』
「初めて飲みに行った時」
『ああ……』とそれには納得したが、疑問はもう一つあった。
『使い難いって……どう言う意味ですか?』
「これがウチの御神体だから。あたしは、あくまでも預言者――つまりあんたね。の言葉を伝えてるって設定なの」
『なるほど……』
暫しの間を置き、サチコの悲鳴が叩きつけられた。
『ああぁぁぁ!!』
「……な、なに?」
『私、悪魔になって暫くしてから頭痛がするようになって、体が変化した反動かと思って気にしないようにしてたんですけど、最近酷くなってきててて……』
「……それが?」
『私を神域に
「……たしかに」
『いや、もっと厄介じゃぞ』
ヌッとパンダが割り込んだ。
『お前を神として
『じゃあこのままだと私……』
『うむ。天使から悪魔になった者が居ったであろう? あの逆じゃ』
『そんな……ダメです! 絶対ダメです!!』
『しかし……この理に逆らうコトはできぬぞ』
「ちょっと待って、どういう事なの?」
平静を失ったサチコに代わり、筋肉目玉が答えた。
「我々
「なるほど……。じゃあ、このまま幸子が神として信仰され続けると、いつか神になってしまうってこと?」
「そういう事です」
「どうしよう……ここを解散させようか?」
『いやそれではコンポン的な解決にならん。信仰されている事が問題なのじゃ』
「一人でも信者居るとダメ……って事?」
『うむ……。しかも蝕が終わった後、人の信心はバクハツ的に強くなる。半人半魔であるサチコは……』
『そんな……ヤダヤダヤダ!!』
「幸子は何か特別なの? この二人と何か違うの?」
と、リンとケーラーを振り返った。
「姐さんは元人間の半人半魔、半分悪魔で半分人間なんでさ」
「それだとまずいの?」
「神や悪魔は常世の住人、人は
あっしは純血の悪魔、あっしを縛るのは常世の理。なのでこの通り、人が作った神域に居ても平気なわけです。
一方姐さんは半人半魔。半分人が残ってやすからね、悪魔でありながら現世の理にも縛られるんです。直接ここへ来れなかった理由もそこです」
「なるほど……。じゃあそこの二人は?」
「その二人は特殊でして……、姐さんと同じく元は人間ですが、ご存知の通り神の祝福を受けた光の戦士。そして魔王が血族の眷族。神、悪魔、人間の全てに属した存在なんです。常世と現世の双方の理に縛られながらもその影響は受けねぇんです」
「何それ……最強じゃん」
「ええ、インチキ臭いの連中なんでさ」
筋肉目玉は菓子に手を伸ばし、ポリポリと摘みながら呟いた。
その頃、廊下で二人を待つ滝本は――
一瞬のスキを突き、湧き出た欠伸をかみ殺した。表にこそ出さないが、流石に退屈らしい。
その時、障子が僅かに開きリンが顔を突き出した。
「滝本さん――滝本2曹。今日は戻れそうにないから、先に戻ってもらえるかな? ちょっと立て込んできちゃって」
「……部隊を要請しますか?」
「大丈夫。そういうのじゃないから」
「了解しました。明日は何時にお迎えに上がりましょう?」
「んと……とりあえず今日と同じ時間に」
「了解しました」
「ご苦労様」
敬礼をして踵を返した滝本の背に声をかけ、リンは顔を引っ込めた。
障子を閉めると同時に、室内にサチコの悲鳴が響いた。
『ヤダヤダヤダヤダーー!!』
『お、落ち着けサチコ! 手はあるはずじゃ!』
「落ち着いて。あんたらには、こんだけ世界をグチャグチャにする力があるんだから何かあるでしょ?」
「姐さん落ち着いて下さい。きっと手はあります」
七美はリンとケーラーを振り返り、二人を促した。
「ボケっと見てないで、あんたらも何か考えてよ!」
「そんな言われても……」
「何を何処までできるのか……、我々もまだ勝手が……」
舌打ちを漏らし、ポリポリと菓子を貪る筋肉目玉の頭――目玉をむずりと掴んだ。
「テメェ
「す、すみません……つい」
『蝕は後数日で終いじゃ……我らが直接かんしょうできるのもあと数日ということじゃ。どうするのだサチコ! Bルートのようになにかうまい手はないのか!?』
「ちょっと、そんな煽ったら――」
『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーー!!』
『サチコ、落ち着け!』
『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーー!! ななみざんだずげでぇぇ……!』
わんわんと泣き出したサチコと狼狽える面々を見渡し、舌打ちと共に大きくため息をついた。
「あああ! もう! 魔界の№2に№4にチート戦士まで居るってのに……ほんと、揃いも揃って……!」
筋肉目玉を投げ捨て、キッと一同を睨みつけた。
「……いいわ、あたしが何とかする」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます