彼女のなりたかったもの
様子を見に寝室へと足を運ぶと、ココは窓の外の青空を見つめていた。つられて空を見ると、ああなるほど、とてもいい天気だとそう思った。
「ずっとひとりで考えてたら、疲れるだろ」
「ヴァン……」
キンスのベッドの隣に座るココ、その隣に椅子を持っていき、ヴァンも腰かける。話しかけてみて分かったが、ココは案外スッキリとした顔をしていた。
「んーん、意外とそうでもないんだ。ウィットがあっさり決めてくれたから、ぼくも決めやすいのかも」
「って、ことは。でも、本当にいいのか?家族に会えなくなっちまうんだぜ?」
「それはね、いいんだ。淋しいけど、家族に会えないのはヴァンもキンスも、ウィットも同じだもん。ウィットが覚悟決めたのに、ぼくだけ嫌だなんて言えないよ」
実際のところココには、『フラグ』だの『モブ』だのはよく分かっていないだろう。それでも家族に会えなくなるということだけは理解出来ているようで少し安心していた。
キンスの夢を元にいろいろと試して見た結果、ヴァンたちはかなり前からその事実を知ることは出来ていた。お城の人たちがココを探していないとタカをくくっていたのもそのため、ココからの手紙を無意味だと焼き捨てたのもそのためだ。
もとよりその事実を知っていた上、『家族』というモブを用意されていないヴァンたちにとって、ココやウィットの決断がどれだけ当人にとって重いものなのか、量ることなどできやしなかった。
「ぼくね、いつか立派な王子様になって、誰かを助けるのが夢だったんだ」
そんなことを考えていると、ココが柔らかな声音でそう告げる。その顔はやはりどこか晴れやかで、外に広がる青空のようだった。
「でもね、気付いてたよ。んーん、教えて貰ったんだ。キンスに。女の子なのに王子様なのはおかしいんだって。初めて会った時に、キンス、そう言ってたもん」
「…………」
「だからね、いいんだ。それにぼくは夢を全部諦めるわけじゃない。王子様じゃなくなったって、ぼくの力でキンスを助けることが出来るんだ」
ココが女の子だということに、気付いていなかったわけではない。余りにも無邪気すぎる彼女に、それを口にするのは野暮だとそう思えていたから口にしなかっただけだ。
きっとキンスもそう思ったのだろう。少なくともこのログハウスで、ココの性別について言及がされたことは、ただの一度もなかったのだから。
「……ホントに、後悔しねぇな?」
「うんっ、大丈夫だよ! 口に出したらすっきりしちゃった。話、聞いてくれてありがと、ヴァン」
ココは笑ってそう言うと、眠るキンスへ視線を落とす。決意を固めたその顔は、きっと、もう立派な王子様だ。
「……それでね、ヴァン」
「ん?どうした?」
「あの……」
言いづらそうに、口篭る。気のせいか頬が僅かに赤く見えた。
「できれば、その。席を外して欲しいんだ」
「いいけど……、そりゃまた、どうして?」
「えへへ……」
ヴァンが首を傾げていると、意を決したようにココは言う。
「王子様が、呪いを解く方法なんて1個しかないよ。だから、……ちょっとだけ、キンスとふたりきりにして欲しいんだ」
はにかみ笑う、その姿を見て、ああ、キンスの呪いは解けるんだなと、そう確信をした。
一言、分かった、とだけ告げ、ヴァンは寝室を後にする。
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