敗者と勝者
『ええ、狩人。あなたたちの敗けです』
眼前に突然現れた梟は、そう軽やかに宣言をした。その意味は咀嚼するまでもない。ヴァンもまた、確かに感じている事だった。
「あ、アウル?それって、どういう……?」
『……ココ。私は今からヴァンと大切なお話があります。席を外して頂くことは、できますか?』
「…………」
困ったような青い瞳がこちらを見上げる。その頭を軽くもうひと撫でだけして、ヴァンはしっかりと頷いた。
「大丈夫だ、悪い話じゃねえからよ。だから家に戻ってろ。俺も、すぐに戻るからよ」
ココは少し不安そうにしていた。けれど従順に、ログハウスへと戻っていく。空気を読んだ、というべきだろう。齢にして10歳にも満たないとは思えないその聞き分けの良さに、確かに王子の賢さを感じとった。
『悪い話じゃない、ですか。余裕ですね、狩人』
「やだなあ、アウル。昔みたいに仲良くやろうぜ。一緒に住んでたあの頃みたいにさ」
『ふふ、あなたは変わりませんね。ですが魔女の方はどうでしょう。彼女は私の事を嫌っていると思いますが』
淡々と梟は語る。その胸に何を思っているのか、量り知ることなどできはしない。それなのにあちらの金の瞳は、まるで全てを見通すようだ。本当に全てを見通されてやしないかと、冷や冷やすることもしばしばだった。
「さあ、どうだろな。罪を憎んで人を憎まずじゃねえけどさ。あんたのことは別に嫌ってねえんじゃないか?」
『おや。そうですか、それは意外です。けれど今回のことで嫌われるだけのタネはしっかりと揃ったことでしょう。まあもう二度と会うことはないでしょうが』
「…………」
今回のこと。つまり、キンスとミラの勝負のことだろう。この梟は当然、勝負のことは知っていたはずだから、裏でコソコソ手を回していたということなのだろう。
「ミラは手を出さねえって言ってたけどな。ルール違反じゃねぇの?」
『おや。ミラは何も手出しをしていませんよ。これは私の独断です。ルールを破るなんて真似、私がするはずもないでしょう』
相変わらずの生真面目だ。やれやれとヴァンは肩を竦めた。人生もっと気楽に生きてもらいたいもんだ。アウルも、キンスも。
「……そんで?勝利宣言しにわざわざ来てくれたわけ。それなら俺じゃなくキンスにしろよな」
『魔女は後ほど。ミラの方が行うでしょう。私は聞きたいことがあって、あなたの元を訪れたのですよ、ヴァン』
「聞きたいこと、ねえ。この非力な狩人に答えることが出来ることならば、何なりと」
笑顔で言うと、梟は首を大きく傾ける。きっと不審に思ったことだろう。勝負に負けたはずなのに自分はこんなにも悠然としている。
『ならば訊きます。狩人ヴァン。あなたは――』
「――キンスッ!!!」
ログハウスから声がした。この声は、ココのものだ。
『……何です……?』
「行ってみるか」
頷いて、ログハウスへと向かう。ああ、、上手くいったみたいだ。意図せずヴァンの口許に笑みが浮いたことに、梟だけが気付いていた。
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