暖かな日差しの下で
「……ココ、ちょっといいか?」
ログハウスの裏手。大きな木陰のその下にココはいた。真っ青に澄んだ空と反対に、その心はモヤに包まれていたのだが。
「うん。大丈夫だよ、ヴァン」
頷くと、ココの隣にヴァンは腰掛けた。吹き抜ける風が頬を撫でる。ひとつに縛ったヴァンの髪も揺らした。
「キンスのこと。びっくりしたろ」
「うん……。もう、大丈夫なの?」
「落ち着いたからひとりにして欲しい、って言われたぜ。それ疑っちゃ、駄目だろ。いろいろ」
ヴァンに連れられキンスが寝室へ消えてから、ココとウィットは用意された朝食を食べた。ヴァンの指示だ。キンスが落ち着くまで傍にいてあげたいから、2人は先に食事を済ませていてくれ、と。
「……ひとりにして欲しい、って気持ち、ぼく初めて分かったよ」
「ココもひとりになりたかったか?」
「うん。少しね。だからウィットにお留守番お願いしちゃった。ウィット、退屈してないといいけどなあ」
そう言うと、ヴァンがははっと笑って頭を撫でた。思わずココははにかみ笑う。
「ココはえらいな。でもたまには、自分の心配だけしててもいいんだぜ?疲れねえか?」
「ううん。それにそれはヴァンもだよ。今も、キンスのことは心配だけど、ぼくのことも心配して様子を見に来てくれたんでしょ?」
キンスはああ言うが、この最年長は存外に周りを見ている。普段の飄々とした態度がまるで嘘みたいに思えることが、度々あった。
「……こりゃ、一本取られたね」
肩を竦めてヴァンは笑う。そんな様子にココもまた、釣られるように笑った。
木々がざわざわと揺れる。木漏れ日がキラキラと輝いた。のどかな朝だ。キンスのことさえなければ、のんびりお昼寝でもしてしまいたいくらいだった。
そういえば、結局1度も草原の上でお昼寝はしていない。帰る前に一度くらいやっていても良かっただろうかと考えたところで、少し表情が曇った。
「なあ、ココ。さっきの話だけどさ」
「うん」
「お城に帰る、ってやつ。考え直すことはできねえか?」
「…………」
押し黙る。すぐに返せる言葉がなかった。ひとりになって考え込んでも尚、キンスがあそこまで動揺した理由がわからないのだ。
「……でも、いつかは帰らないと」
それは確かにそう思っていた。今日に至るまで、ずっと。いつまでもこのログハウスにいるわけにはいかないと。その意見は、変わらない。
「それにウィットは、お父さんと喧嘩してるんだ。早く帰してあげないと、仲直りできなくなっちゃうかもしれない。あと……」
僅かに俯く。王子とあれど、子どもの自分の手は小さい。やれることなんて限られている。何かがあってからでは、遅いのだ。
「もし誰かがウィットを探しに来たら、ヴァンとキンスに嫌なことが起きるかもしれない。誘拐とか、そんな話に勘違いされたら、ヴァンにもキンスにも迷惑がかかっちゃうよ」
「……そっか」
頷くヴァンの声は柔らかかった。ココは偉いなと、また頭を撫でる。拒むことなく受け入れたココは、その時視界に何か白いものが映ったことに気付いた。
『ええ、本当に。偉いですよ、ココ』
音もなく、梟は2人の前に現れる。また風が吹く。木々が揺れ、木漏れ日も揺れる。ぽかんと呆気に取られたココの隣で、ヴァンが小さく呟いた。
「……なるほどな。そういうことかよ、アウル」
美しい白い羽に金の瞳。いつものように、アウルの顔に表情なんてものはなかったけれど、その声音はとても楽しそうにこの場に響いた。
『ええ、狩人。あなたたちの敗けです』
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