5日目 A - 誰かの望んだ結果

まるでカップが割れるように

 翌朝は、よく晴れた素晴らしい空だった。

 きっとキンスの箒も乗り心地がいいだろう。そういえば昼間にあの箒に乗ったことはなかったなと、そんなことを考えた。


 きっとお天道様も、自分とウィットのことを応援してくれているのだ。


 ――ガチャン。


 皿の割れる音。耳をつんざくその音に、ココは思わず身を竦めた。


「いま、……あなたたち、なんて……」


 震える声。キンスはあの時と、同じ顔をしていた。ウィットを初めて見て、ログハウスを飛び出していった、あの時と。


「ち、ちょっと、危ないわね!だから、お城に帰りたい、って、そう言ってるの!」


 ウィットが声を上げる。

 食前、昨晩決めたその話を、ココたちはキンスに話したところだ。ただそれだけ。ココたちにとっては、本当にただそれだけの話だった。


「だ、駄目よッッ!!」


 キンスの大声は、初めて聞いた。これには流石のウィットも驚いたらしい。後ろに1歩、歩を下げる。


「お、落ち着けキンス。ちゃんと話そう、な?」

「…………」


 ヴァンが慌ててキンスの肩を抱く。キンスの顔色は青かった。ココはどうすることも出来ない。何故こんなことになっているかが、分からないのだ。


 ずっとこの家にいるのは、2人の負担になるだろうと思っていた。

 薬草と交換して手にしている食料。自分とウィットの分は、どこから捻出されているのだろう。そんなことは考えるまでもない話だ。


 だからこそ、名残惜しさこそはあれ、帰ることとなった経緯を聞いた今、よもや反対されるだなんて思ってもいなかったのだ。しかも状況は、ただ反対されたというわけでも無さそうだ。

 以前帰りたいとココが申し出た時にはこんなことにならなかったのに、この数日で一体何があったのだろう?


「と、取り敢えず今は休もうぜ、キンス。ココやウィットも、別に今日今すぐじゃなきゃならねぇってわけじゃあねぇんだろ?」

「そ、そりゃあ……」

「ならほら。キンスが落ち着いたらその話、またしようぜ。キンスも急な話で動転してるみてえだしさ」


 そう言いながら、ヴァンはキンスを2階へと連れていく。ココとウィットはその姿をただ見送ることしか出来なかった。


「……ね、ねえ。あれ、どうしたの……?」

「わかんない……」


 取り残された2人には、困惑と不安が色濃く残る。けれど、ココから見たキンスの様子は、困惑や不安なんてものじゃなく、『絶望』に彩られていたように、思えたのだ。


 何だか、妙な胸騒ぎがした。

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