決断
「ぼくね、ウィットのお父様は、怒ってないと思う。多分すっごく、心配してると思うよ」
「心配……?」
「うん。だって、仲良しだったんでしょ? ぼくなら、すっごく心配するよ。帰ってきて欲しい、って思うよ」
言いながら、少し、罪悪感が湧き登った。自分もまた、両親や城のみんなに心配をかけながら、このログハウスに滞在していたのだ。
「でも私、酷いことを言ってしまったもの。だいきらい、って。帰ったって、もうどうしようもないわ」
しょんぼりと俯く仕草は、やはり幼い子どものそれだった。そして下唇を軽く噛むその姿ですら、まるで何かの絵画のように思える。
「……そんなの。簡単だよ」
カラリと、ココは笑う。悪いことをして、それを後悔している少女。もう既に諦めてしまっているようなその姿を見るも、やはり尚早だと感じていた。
「ごめんなさい、って言ってみようよ。酷いこと言ってごめんなさい、心配かけてごめんなさい、って。許してくれるかは分からないけど、言わなきゃ許してもらえないんだ」
昔、花瓶を割ってしまったことがあった。まだ幼かったココは破片が大きかったのをいいことにその痕跡を全て隠してしまったのだ。
当然、いつかは見つかる。隠していた分物凄く叱られた。叱られたけれど、その後は許してくれたのだ。
「それに、ウィットだけじゃないんだ」
「……? どういうこと? ココ」
ウィットの瞳がこちらを見る。くるりと大きな瞳に自分の姿が映っていた。
「ぼくもね。全部キンス任せで、自分の言葉でお父様たちに外出の許可をもらったわけじゃないんだよ。だから、お城に帰ったら怒られるのかもしれない」
ずっと気にかかっていた。
本を持ち帰ったキンスは、確かに城へ行ったのだろう。しかし以降1度も城の使いがこのログハウスを訪れないというのは、少しおかしな話だった。
もしかしたら、自分で許可を取りに来なかったことを、怒っているんじゃないだろうかと。
「でもね、ウィットが頑張るなら、ぼくも頑張るよ。全然別々の場所だけどさ、2人で謝ろうよ。それで、2人で怒られよう。それなら、何も怖くないって思わない?」
ウィットだけに筋を通せというのはおかしな話だ。ココはそう考えていた。
それに、このログハウスでとてもたくさんの経験をした。たくさん遊び、話し、本を読んで。もっと遊んでいたいだなんて、バチが当たってしまう。
きっと、今がその時なのだ。
「ぼくも、お城に帰るよ。キンスに頼んで、2人ともお城に帰してもらおう?」
そう笑いかけると、少し考えるような間の後、ウィットは小さく、こくりと頷いた。そんな様子を見て、ココはまた嬉しくなって笑顔を向けた。
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