王子と姫
ハッと、目を覚ます。
顔を上げると、見慣れた景色が広がっていた。
(……寝て、いたの)
荒い呼吸に、嫌な汗。寝起きはいつも、こうだった。
昼下がりの、ログハウス。静やかなのは、皆、湖に向かったからだ。呼吸を整えながら、現状を思い出す。
(……嫌な、感じ)
こういうとき、自分の勘は大方当たる。窓の外を見て、1つ、嘆息した。
(ヴァン、ヘマしてないでしょうね)
例えば、ココとウィットから、目を離したりだとか。森の主との接触を、許したりだとか。
ミラとの『ゲーム』の話がある以上、そのようなハプニングで後手に回るのは、避けたい。
王子と、姫。
手の内にあるそれらは、未だ不発の、爆弾といえる。その重要性を知らないヴァンではないだろう。『ゲーム』の話がなされたとき、その場にいたのだし。
そう思いはするものの、不安も過ぎる。ヴァンの日頃の行いを鑑みると、どうしても。
「…………はあ」
嫌気がさす。疑ってばかりの、自分自身に。ヴァンのことくらいは、信じていたいものなのだが。
ミラの言葉を、思い出す。ココとウィットが帰るまでに、何がどうあっても、自分は何かを成さねばならない。
その『何か』が何なのか、未だ不明瞭なその内容に、意識を傾け続けねばならないはずなのだ。身内を疑っている場合では、決してない。
(……運命を変えてやる、ね)
思えば、全て、こちらの動揺を誘うための、罠だったのかもしれない。持ちかけられた話は、いくらなんでも大それすぎていて、少し、おいしすぎる話にも、思える。
(簡単に、詰ませる方法……)
連鎖するように、その言葉も思い出された。王子か姫が、死んだなら。
(…………)
卓上に視線を向ける。フルーツのバスケット。色とりどりの、フルーツが載っている。眠ってしまったため、またタルトがお預けになってしまったことに気付いた。りんごに手を伸ばし、じいと見つめる。
(所詮私は、魔女ね)
艶やかな赤に、自分の顔が薄く映る。酷い顔だ。やはり夢見が、悪かったらしい。
夢。魔女である自分にとってそれは、少し特殊な意味を持つ。予知夢というと些か聞こえはいいが、警告夢のようだという認知をしていた。
その夢により知っているのは自分の運命だ。重ねて見る毎に、その運命は覆せないものだということにも気付いていた。そして、諦めて、いたのだ。あの『ゲーム』の話があるまでは。
覆したいと、願ってしまった。
覆せると、知ってしまった。
どんな手段を使ってでも。
手の中のりんごを見つめる。もうそろそろ、皆が帰ってもおかしくない。そのりんごをバスケットではなく、自分のデスクの上に置いて、キンスは3人の帰りを、待った。
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