狩人の少年
暫くの間、夜空の散歩を楽しんで、お城への罪悪感などすっかり忘れてしまった頃、キンスから声をかけられた。
「ココ。もうすぐよ」
「あ、うん!」
察しよく、ぎゅうとキンスに掴まり直す。少しずつ高度を下げながら、しかし危なげなく着陸体制へと進んでいるようだ。
「ココ、あの。ヴァンのことなのだけれど」
珍しくも少し歯切れが悪そうに、考えるようにキンスが口を開いた。
「ヴァンにはあなたのことを伝えていないのよ。だから、突然のことに驚いて変なことを言うかもしれないわ。気にしないでね」
「変なこと?って?」
「……」
返事は返ってこなかったが、取り敢えず納得はする。自分もキンスからちょっと聞いた程度でしかヴァンのことは知らないのだ。こちらこそ変なことを言わないようにしなきゃと気を引き締めた。
高度はぐんぐん下がり、気付くと森の中にいた。拓けた、広場のような場所だ。小ぶりなログハウスが1つ、大きな木の麓にぽつんと立っている。
「降りていいわよ」
言われるままに、箒からぴょんと飛び降りた。地面だ。先程まで空を飛んでいたためか、何となくふわふわする気がする。
「わあ……暗いね」
キョロリと辺りを見回すが、それはそれは真っ暗だった。夜になっても街灯の輝く城下を見慣れているためか、ここまで暗いところは何となく不安になる。こんな暗いところに住んでいるんだな、と考えると、自然と視線がキンスへと向いた。
「ヴァン。帰ったわ」
ログハウスの軒先へ立つと、軽くノックをしてキンスが言った。その背中を、少し不安げに眺める。
(ヴァン……どんな人なんだろう)
キンスからは狩人だと聞いていた。マイペースでお調子者、とも。キンスの兄代わりということは悪い人ではないはずだと確信しているのだが、先程のキンスの言葉が少しばかり引っかかっていた。
家屋からの応答は特になく、キンスも気に留めない様子でその入口を開けた。室内に入りながらどうぞと声をかけられて、ココもその後を追う。
ログハウスの中は、暖かな光に満ちていた。キッチンに暖炉、食卓、奥には2階へ続く階段も見える。失礼になりすぎない程度に室内を見回して、そして壁に寄りかかった一人の少年を見つけた。
「……ヴァン、起きなさい」
「わ、いいよっ、キンス!」
ぞんざいにも箒の柄でその頭をつつくキンスを慌てて制止する。近寄ると、本当に眠っているようだ。しかしココの制止の甲斐もなく、少年の瞼がぴくりと動いた。
「んぁ、キンス、帰ったのか」
「ええ。お客様よ。だらしなく床で寝てないで、飲み物の準備でもしてくれるかしら」
「客……?」
寝ぼけ眼がこちらを向いた。と、ぱちくりと瞬き。
「え、何ホントに客?友達?」
「ええ」
「お前友達いたんだ」
「失礼ね」
軽口を言い合うと、諦めたようにキンスは背を向けた。キッチンに向かったようだ。困ったようにその背中と少年を見比べていると、
「あはは、気にしなくていいぜ。恥ずかしいんだろ。素直じゃねぇんだから」
カラッと笑った少年に、釣られてココも少しだけ笑みを返した。
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