第4話 ふじさんとカップラーメン
核汚染を逃れた最後の地、山梨が北朝鮮軍に侵略されれば、この地球上でキャンプをする場所はなくなるだろう・・・。
そう説得されて特殊キャンプ部隊に戻ったシマ・リン。
彼女の記憶は元に戻らなかった。
だが天性のキャンプ力は衰えておらず、
ギリギリの防衛を繰り返し疲弊していた日本軍にとって強力な戦力となった。
業を煮やした北朝鮮軍は全戦力を集結、富士火口の臨時日本政府の砦へと一斉に進軍を開始した・・・。
富士山頂での戦闘は熾烈を極めた。
ナデシコ、メガネ、関西弁の3名を従えたシマ・リン隊は凄まじい活躍を見せた。
特に3年間の連続キャンプで増大したシマ・リンのキャンプフォースは強大で、
それにより強化されたテントは銃弾をも跳ね返した。
ナデシコあたりもわりとがんばっていた。
そして決戦開始から三日目の夜、大地が激しく揺れた。
なんだ!?地震か!?
揺れは3度続き、しばらくの静寂のあと、耳をつんざく爆音と衝撃、そして熱風があたりを襲った。ふじさんの噴火だ!
古くから予言されていたふじさんの噴火が、最悪のタイミングで起こった。
日本政府本拠地めがけて全軍を投入した北朝鮮兵は全員マグマに飲まれ蒸発した。
「はやくテントの中へ!」
メガネ、関西弁が直前の戦いで負傷し気絶したナデシコを抱え全員でテントに逃げ込む。
だが強化タングステンのテントといえども、火砕流には耐えることはできない。
シマ・リンはキャンプフォースをすべてテントに集中させた。
「うおおおおお!」
高温の火砕流の嵐がテントを呑み込む。
フレームが軋み、みしみしとテントが崩壊に向かう音が聞こえる。
グランドシートは既にマグマに溶け流され、耐熱防御を失ったテント内は灼熱の空間と化していた。
もうだめかと思ったその時
「ソロキャンもいいけど、みんなでやるキャンプも楽しいんだよ、リンちゃん!」
目覚めたなでしこが背後からキャンプフォースを送る。ふたりの力がテントを更に強化した。
同時に、テント内にあったナデシコの荷物のカップラーメンが高熱で燃え始めた。
テント内にラーメンの香りが漂う!
その時シマ・リンの古い記憶が蘇った。
ナデシコと初めて出会った本栖湖のキャンプ。一緒に食べたカップラーメン。見上げたふじさん。
「思い出した・・・全部・・・!」
ふたりのキャンプフォースがテントを包み、襲い来るマグマの本流と衝突した。
激しい音と衝撃のなか、あたりは眩しい光につつまれ、何もみえなくなった。
特殊キャンプ部隊のテントは火砕流を耐えきった。
ふじさん山頂は赤く輝き、あちこちにマグマが流れていた。
火口にあった臨時日本政府本拠地はもう跡形もない。北朝鮮兵も全滅した。
ラジオからはロシアとアメリカの核戦争ですべてが滅び、残ったのは山梨だけだとYBSニュースキャスターが叫んでいた。
空を漂う火山灰により気温が大幅に下がった山梨は、これから数年、常冬の国となるだろう。
数カ月後。
灰色の空の下、本栖湖キャンプ場にぽつんとひとつの大きなテントと、ひとりの人影があった。
ロッキングチェアに揺れながらまどろんでいたしまりんは読みかけの本を閉じた。
-冬のソロキャンプはいいものだ。
スマート・フォンが振動し、目をやると斉藤からのLINEメッセージが現れていた。
「でも、なでしこメシは忘れられない、と」
「そういうことよ」
しまりんの耳に、なでしこの声が響いてきた
「リンちゃーーーん!」
テントのなかから現れたなでしこが、鍋料理の材料を両手いっぱいに抱えて運んでくる。
メガネ、関西弁もどこからか集まってきた。
生き残った人々の復興も一段落し、
今日はしまりんがみんなを誘ったグループキャンプの日だった。
-みんなでやるキャンプも悪くない。
-このキャンプをいつか誰かが忘れてしまっても、他の誰かが思い出させてくれる。
やがて日が落ち、彼女達は焚き火を囲んだ。
遠くには見守るようにふじさんのシルエットがあり、
おしゃべりと笑い声は夜更けまで続いていた。
ゆるキャン△ ポストアポカリプス 終
ゆるキャン△ ポストアポカリプス 赤井屋根之家 @akaiyanenoouchi
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