第2話 ふもとのソロキャンガール 1096日目のキャンプ

山梨百名山のひとつ、竜ヶ岳での戦闘の後だった。

ペグで北朝鮮兵を惨殺するシマ・リン。冷血なるキャンプ兵として部隊随一の実力を誇っていた。

彼女の率いる隊ではそのテントに泥一つつかなかったという。

だが、シマ・リンにもロシア軍の裏切りまでは察知することができなかった。

日本臨時政府へ補給物資を届けに来たと思われたロシア軍用機は、突如竜ヶ岳への爆撃を開始、

不意を突かれたシマ・リンは爆風により吹き飛ばされ、本栖湖へと落下していった。

本栖湖には核の影響で生まれた大量のミュータントが生息している。シマ・リンの生存は絶望的かと思われた。

だが翌年、複数の集落でシマ・リンと思われる人物が目撃された。

彼女は落下の最中に頭を強打し、記憶を失っていたものの、ふじさん周辺にテントを設営し独力で生き延びていたのだ・・・


シマ・リンは自分は何者か、どこから来たのか、どこへ行こうとしていたのか、すべての記憶を失っていた。

だがキャンプの仕方だけは体が覚えていた。

松ぼっくりで火を起こし(熟練のキャンパーにライターは必要ない)、魚を焼き、木の皮とツタでテントを設営した

足りないものは北朝鮮兵を襲って奪った。生存のための戦闘技術もキャンプの一旦である。

だがそうして何日生き延びようとも、自分が何者であったのかは思い出すことができない。

ただ見上げるといつも目に映るふじさんの姿を見ると、なにか大切なものを思い出しそうになり、心がざわつくのだった。

シマ・リンはそのまま三年間、ふじさんの周囲を転々と移動しながらキャンプを続けた。

キャンプはソロで行うものである。彼女はできるだけ他人にその存在を知られないように生活した。

静寂の時間を他人に脅かされるのが嫌だった。一人で静かなキャンプができればそれでいい。

いつしかなくした自分の記憶にも、次第に興味がなくなってきていた・・・。

ある日、盗んだビーノで山道を飛ばしていたシマ・リンは、何者かが自分を追ってくるのに気がついた。


「撒くか・・・。」


改造ビーノのエンジンが唸る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る