第2話 中学生の2人

 それは遡ること1年半前。



 蓮と結菜が中学3年生の冬の事だった。


 2人の家は隣同士で両家の母親は昔からの友達だ。



 その為、両家は家族ぐるみの付き合いをしていた。


 共働きで帰りが遅い蓮の両親に代わり、結菜の家で夕飯を食べることが多かった蓮。


 休みの日や学校終わりも互いの家を行き来することが多かった。



 そんなある日曜日。



「蓮、入るよー」


「おい、ノックしろよ」


「ごめんごめん」



 結菜は蓮の部屋のドアを開け、中へ入った。



「マンガ借りるよー」


「おう、お前それ好きだよな」


「うん、これ面白いんだよね」



 結菜は蓮の部屋に入って左側にある本棚から1冊のマンガ本を手に取った。


 蓮の部屋はモノトーンな色で揃えてあり、綺麗に整頓されていた。



「またそこ座る」


「ここ落ち着くんだもん」



 結菜はベットに腰掛けマンガを読み始めた。



「マンガいっぱいあるよね」



 結菜はベット正面に見える本棚に視線を移した。



「集めすぎて本棚入り切らないけどな」



 その本棚には、本が入るスペースが8段ある。


 だが、そこにはぎっしり本が詰まっていた。


 入り切らない分は本棚の敷居と本の間に入れてあった。



「凄いね。集めるの大変そう。あ、蓮は何やってるの?」


「俺? 勉強中」



 蓮は部屋に入って右側にある勉強机に座り何やら書き込んでいた。



「勉強? もう受験も終わったのに?」


「あのな、高校入ったら勉強難しくなるんだよ。それに俺、部活入りたいから頑張るの! じゃないと母さんに部活やめさせられる」


「あー、凛(リン)さん怒ると怖そうだもんね」


「そうなんだよ。陽菜(ハルナ)さんは何も言わないのか?」


「言わないよー」



 結菜の言う"凛"とは蓮の母だ。


 そして、蓮が言った"陽菜"は結菜の母だ。


 お互いの両親のことは名前で呼ぶようにしていた。



「ねえ、蓮。 買い物行かない?」



 マンガを1冊読み終え退屈した結菜はベットに寝転がりながら蓮に声をかけた。



「買い物? 俺勉強中って言わなかった?」



 ベットに寝転ぶのはいつもの事のようで特にそれに対しては触れないでいた蓮。



「言った! けど、勉強も息抜き大事だよ。ね! 行こう」


「……わかったよ」



 結菜に負けた蓮は腰を上げ買い物へ出かけるのであった。




 ♢♢♢




「欲しいもの買えてよかったー! 蓮ありがとう」


「欲しいものって……それかよ」



 蓮は先程結菜が買った袋に視線を向けた。


 結菜が買ったのは高校で使う文房具類だ。



「蓮と買い物久しぶりだね」


「なあ、もうそれやめないか? 俺達、来月から高校生だぞ」


「あ、ごめん……」



 いつもの癖で結菜は蓮の腕に自分のそれを絡ませた。


 蓮に指摘された結菜は組んだばかりの腕を離した。



 それからの2人は終始無言。


 必要なことのみを会話する程度だった。



 それからというものの常に2人で行動していたのが嘘のようにぱったりと無くなった。


 蓮は結菜の家に夕飯を食べに来ることもなくなったのだった。



 高校に入り、蓮が部活に入ったのもあるが2人の間には未だに気まずい空気が流れていた。




 ♢♢♢




「(その時からか……一緒にいるのが当たり前じゃなくなったのは。蓮は、あたしのこと嫌いになったのかな……)」



 結菜はそんなことを心の中で呟いたのだった。




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