第22話 行きついた先
「……」
「な、なに、怒っちゃったの?」
ベッドの上に座って遠くをみている僕に、アルマが慌てて声を掛けてきた。
「……怒るなんて上等な事はしないさ。ただ、悲しいだけだよ」
僕はため息を吐いた。
「ご、ごめん!!」
アルマが僕を抱きしめた。
「……いいんだ、猫ってこういう宿命なんだ。僕たちのきれい好きと人間のきれい好きの認識の間には、埋めがたい溝があるんだよ。そう、これが人間のきれいなんだ。僕たちが慣れるしかないんだよ……」
僕は深いため息を吐いた。
「な、なんか、酷い事したっぽい。本当にごめん」
アルマが僕に顔を押し付けて抱いた。
「……大丈夫。分かってるから」
「……ごめんね」
「うん、直った。問題ないよ」
「なにか語り出すからびっくりしたぞ」
海を進む船は、快調に進んでいた。
「あーあ、やっぱ雑魚寝のしょうもない部屋の方がいいな。似たような連中と話もできるしさ。結構、この手の情報交換は重要なんだぞ。そういえば、気がついてるかな。この船って人間サイズだぞ。ようこそって感じか?」
アルマが笑みを浮かべた。
「……なに、人間世界に出ちゃったの。うっかり?」
「狙い通りだぞ。猫の世界は興味あるけど、たまたま次の村が境目みたいな場所にあってさ、どうしようかなって思ったんだけど、君を連れ出してみたくなったんだ。あの湖を渡らなければ、猫世界のままだったんだけどね!!」
僕は頭を掻いた。
「……自分、どこからみても猫ですけど?」
「お前、喋って魔法をガンガン使う猫なんてこっちにはいねぇぞ。こんな自慢出来る相棒いるかよ。旅にでちまったついでだからみておけ!!」
僕はため息を吐いた。
「このアクティブな使い魔には逆らえないよ」
「おう、気がついたか!!」
船は海を走り、大きな島へと到着した。
「この船着き場が事実上の境目だな。ここから船に乗れば戻れるってわけだ」
船から下りて、アルマがいった。
「……まあ、そう思えばね。変な魔法とかじゃないし」
「そういうこった。よし、まずはこの島をみよう。きたことないもん」
アルマについて、僕は島の道を歩き始めた。
「まあ、普通っていえば普通か。どうも、ここは人間世界だな。みれば分かるよな?」
それほど人が多いわけではないが、道行く人は僕には珍しい人間だった。
「……人間とは考える葦である」
「こ、こら、妙な思考に入るな。落ち着け!!」
アルマにくっついて歩いていると、推定子供を連れた推定お母さんが立ち止まった。
「お母さん、この風船買って!!」
「……自分、生きてる猫っぽいです」
僕が俯くと、その子は不思議そうな顔をした。
「なんか喋った!!」
「ああ、たまに見かけるね。そんな悲しそうな顔しないで」
僕が顔を上げると、その子が頭を撫でてきた。
「これどこにいるの?」
「……自分、ここにいます」
「うん、知らないけどそういう国があるとかないとか。いってみたいわね」
「……そこの船に乗ると、なんか着いちゃうっぽいです」
「えっ、そうなの。あの船なかなか乗せてもらえないから噂になってるんだけど、これで話の種が出来たよ」
僕はそっと呪文を唱えた。
「えっ?」
子供が反応した。
「……僕の風船なんかなんの役に立つか分からないけど、良かったら持っていって」
子供が奪うように風船を受け取った。
「ありがとう!!」
「……うん、ちなみに歩けって叫ぶと歩くよ。気味悪いけど」
子供は風船を道においた。
「歩け!!」
風船がゆっくり歩き始めた。
「なんだこれ、面白い!!」
「あら、いいものもらったわね。ありがとう」
親子はそのまま去っていった。
「な、なにやってんの、面白かったけど!!」
傍でみていたアルマが笑った。
「いや、どうしていいか分からなかったから、出来るだけリクエストに応えようかと……」
「そういう所が君らしいよな。いい人ばっかりじゃないから、気を付けろよ!!」
アルマが道沿いに小さな店を見つけた。
「そういや、ロクに食ってなかったな。腹ごしらえしようぜ!!」
アルマが店に入った。
「おう、なんかくれ!!」
「……そのオーダーはどうかと思うけど」
店のオバチャンは、やはり僕をみた。
「こりゃ珍しいね。なんて目でみちゃいけないんだけどさ。滅多にお目にかかれないからさ。よし、奢るよ。こりゃなんかいいことがあるよ!!」
「なに、ホント!?」
「……僕って、そんな効果あったかな?」
店のテーブルに座ったアルマの膝の上に乗った。
「おう、お気に入りか?」
「それもあるけど、まさかテーブルに乗れないでしょ。人間の社会に出たらそうだって師匠がいってたよ」
「……君の師匠って何者だよ」
オバチャンがなにか料理を持ってきた。
「もう、とにかく奢りだ。片っ端から食べていきな!!」
「おいおい、ホントにいいのかよ!!」
「……僕ってなんなの?」
運ばれてきた料理を少し手に取って、アルマは僕の前に差し出しだ。
「テーブルに乗れないならこうするしかないだろ。熱い野郎でも気合い入れるぜ!!」
「……僕は猫舌だから大丈夫だよ」
こんな調子で食事を済ませ、僕たちは店を出た。
「おい、マジでタダメシだったぞ。すげぇ効果だな!!」
「だから、僕ってなんなの!?」
島を適当に周り、これといったものはないと確認したアルマは、僕を抱きかかえてここにきた船とは違う船の船着き場に向かった。
「この船の行き先はポルトケタスってデカい港街だ。ビビるなよ、人の数が半端じゃねぇから!!」
アルマは笑みを浮かべ、乗船券を買いにいった。
そして、怒りに満ちた顔で買えってきた。
「あ。あのさ、絶対なんか出してるだろ。、また、特等しか空いてねぇよ。さっきのタダメシも旅人的には微妙なんだけどよ。あのな、いいから落ち着いてくれ!!」
「な、なにもしてないよ。ホントに!?」
アルマは乗船券を手にため息を吐いた。
「あり得ねぇんだよ、特等なんて金持ちの馬鹿野郎が買い占めちまうからよ。なんで、どうでもいい雑魚寝が定員オーバーしてるんだよ。まず、考えられねぇぞ!!」
「そ、そういわれても……変な魔法が暴発してるのかな」
アルマが僕を抱えた。
「もう頭に来た。こうなったら特等の床で寝てやる。せめてもの反抗だ!!」
「い、意味あるの、それ!?」
アルマは船に乗り、船室に入った。
「ったく、どうも調子が狂うぜ。ちなみにこれ、昨日就航したばかりの料金がバカ高い高速連絡船だぞ。たまたま一番早いやつを買ったら当たったぞ。もう、なんだよ……」
「やっぱ、僕のせいなのかな。そんな魔法、作った覚えはないんだけどな……」
しばらくして船が動き出し、まさに高速連絡船の名に恥じない快速っぷりで海原を駆け抜け始めた。
「全く情緒がねぇよ、なんだよこの速さ。旅ってかただ運ばれてるだけだぞ、これ。面白くねぇよ!!」
船の速度がさらに上がり、猛烈な波飛沫を上げならあっという間に海を渡り終えた。
「はぁ……よし、気を取り直していくぞ。ここが、さっきいった港街だ。迷子になると困るから、肩に乗せておくぞ」
アルマは僕を肩にのせ、生まれて初めてみる人混みというものの中に入っていった。
適当に歩くと、大きな店に入った。
「ここはまあ、旅人向けの食堂兼飲み屋って感じか。どっかの街にいったら、まずは立ち寄って情報を集めるって感じだな」
「へぇ、面白いね」
アルマは店のテーブルに座った。
「適当によろしく。なんか面白い話ない?」
オーダーを取りにきたオッチャンにいった。
「面白い話か。そこのオヤジがなんかいってたな。呼んでこよう」
オッチャンがテーブルから離れ、すぐにオヤジというには若そうな人を連れてきた。
「おう、どうした?」
「腕は立つ方かな?」
まあ、オヤジがいった。
「どうだかね。そこらのボンクラよりはマシじゃないの」
アルマが笑みを浮かべた。
「いや、うちは代々魔法使いの家系でね、召喚魔法の研究をしている最中に誤って妙なものを呼び出してしまってね。腕利きを雇って排除を試みたのだが、物理的な攻撃も魔法も一切受け付けないのだ。幸い、まだなにかされたわけではないのだが、このまま置いておくわけにもいかない。無理を承知でお願いしたいのだが、どうかね?」
アルマが小さく笑った。
「面白いじゃないの。ここに、頼れるニャンコ魔法使いもいるしよ、喜んで引き受けようじゃないのさ。まあ、報酬にもよるけどな!!」
オヤジは革袋を取りだした。
「前金と思ってもらいたい。駆除に成功すれば後金を支払おう。どうだ?」
アルマは革袋を懐にしまった。
「これが答えだ。早く案内しろ!!」
アルマは僕を肩に乗せ、椅子をたった。
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