第23話 最初の村にて
「先にいっておくよ。これはあくまでも旅をするための、路銀を稼ぐためにやってるんだぞってみせてるだけだからね。こういうのは私がやるから、君は旅を楽しんで。人間の世界なんて初めてでしょ?」
アルマが笑みを浮かべた。
「うん、緊張しっぱなしだけど……」
「そのうち慣れる。この街は大きいけど、ここは田舎だから楽だと思うよ!!」
先を行くオヤジさんが大きな家の前で止まった。
「この家だ。ここの地下室にいる」
オヤジさんが先に入り、僕たちは問題の地下室に行った。
「な、なんだ、ありゃ!?」
アルマが声を上げた。
「分からん。とにかく、なにやったって効かないのだ」
地下室の空間には、黒い球体が浮いていた。
「……ああ、そりゃなにやっても効かないよ。あれは、物体じゃないから」
僕は笑みを浮かべた。
「物体じゃない?」
オヤジさんが不思議そうな顔をした。
「異空間の断片とでもいうか……あれは、召喚魔法が中途半端に発動した時に、消えるはずだった異空間の一部が残っちゃったんだ。物体のように見えるけど異空間の中が見えてるだけ。そりゃ叩こうが魔法を撃ち込もうが消えないよ」
僕は呪文を唱えた。
閃光が走り宙に浮いた黒い球体は消えた。
「ちゃんと閉じておいたよ。これで対応完了だね」
「……こ、この猫凄いな」
「……お、おう、やるな!!」
僕は笑みを浮かべた。
「この程度で済んだけど、場合によってはそこら中のものを吸い込んじゃう厄介なものが出来ちゃうときがあるから、召喚魔法は気を付けて。元々、危険な部類の魔法に入るからね」
「……微妙に説教されたな」
「……魔法に関しては語るぞ」
親父さんは笑みを浮かべた。
「まさか、そんな理由だったとはな。これが後金だ。気味が悪かったので助かったよ」
「おう、毎度!!」
後金を受け取ったアルマは、僕を肩に乗せた。
そのまま家を出ると、通りを歩き始めた。
「レオン様々じゃん。あんなの、どうにもならなかったぞ!!」
「あのくらいならよくある事だからね。知らなかったのかな?」
アルマはその後はどこにも寄らず、街の大きな門へと向かっていった。
「よし、旅の開始だぞ。この辺りはエルダール地域っていうんだけどね、ぶっちゃけドが付く程の田舎じゃ!!」
アルマが笑った。
「田舎か、いいねぇ。こういう大きな街は目眩するよ」
街の門に付くと、馬車なんかも含めて長い行列が出来ていた。
「これなんだよね、デカい街は出るのも入るのもいちいち審査するからさ。これが、面倒なんだよね!!」
列に並んでジリジリ進んでいくと、かなりの時間が掛かって僕たちの番がきた。
「ん、猫?」
なんかエラそうな人が聞いた。
「どっからみても、猫にしか見えないだろ。なんか文句あっか?」
アルマが早くも喧嘩腰だった。
「お、落ち着いて!!」
「のわっ、喋ったぞ!?」
「おう、喋ったら悪いかよ。ついでにいうと、ど派手な魔法まで使っちまうぞ。なんなら、食らってみるか?」
僕は思わず笑みを浮かべてしまった。
「ああ、もうどっか行け。食らって堪るか!!」
「早くそういえよ。ただでさえ待たされて、この猫がブチキレそうなんだからよ。この街消されたくねぇだろ?」
僕はまた笑みを浮かべてしまった。
「ああ、悪かったからどっか行け!!」
「おう、馬鹿野郎!!」
アルマは道に出た。
「あ、あのさ、僕を使うのやめて。思わず笑みとか出ちゃうから!!」
「いいんだよ、あんな役人なんかよ。弄るために立ってるんだからよ」
アルマは笑った。
「さて、このまま行くとボロい村があったはずだな。ああ、あっちと違ってさほど魔物はでないぞ。それより怖いのは人間なんだよ。強盗の類いが多くてさ、チンケな野郎ばっかだけど、たまに気合い入った連中がいるんだ。先にいうぞ、容赦はするな。やられちまうからな!!」
アルマが笑みを浮かべた。
「に、人間なのに!?」
「ああいうのは人間と思うな。これが鉄則なんだ。向こうはもう最初からぶっ殺してなんか奪ってやろうってしか考えてないからさ。魔物と変わらないだろ、そういう意味じゃ!!」
アルマは剣を抜いた。
「ほとんどがそれだからな。これで斬ったの。つまり、魔物なんかよりよっぽどタチがわるいんだ。悪い事したなんて思ってないぞ。当たり前の対応しただけだからな!!」
「……これはこれで危険地域かも?」
しばらくいくと、小さな村が見えてきた。
「ん?」
アルマが声を上げて剣を抜いた。
「どうしたの?」
アルマの表情が険しくなった。
「あの村、そのロクデナシにやられたな。いっただろ、魔物と変わらないって。とりあえず、急ぐぞ!!」
アルマが僕を肩に乗せ、剣を片手に道を走った。
村に飛び込むと、アルマは慎重に周囲を伺った。
「……大体、追跡を阻止するために、使い捨ての野郎を置いてるもんなんだけどな」
バシッと音が聞こえた瞬間、アルマの剣が翻った。
地面に太い矢が落ちた。
「ほら、いたぞ。クロスボウなんて生意気なもん使いやがってよ!!」
アルマは僕を肩に乗せたまま、狭い村を駆け抜けた。
出遭ったなんか悪そうな人を躊躇なく斬り捨て、あっという間に一通り回った。
「……こんなもんか。大して気合いが入った連中じゃねぇな」
アルマが剣を収めた時、家の影で何かが動き太い矢がアルマの左太ももを貫いた。
「……まだいたか」
これではアルマが戦えない事は、僕の目にも明白だった。
「……人間の気配なんて慣れてないから」
その間にも矢が飛んできてアルマに刺さった。
「……どう考えても、ヤバいぞ!!」
こうなったら村ごとぶっ飛ばせば倒せると思うけど、それはさすがにマズいと思う。
僕は探査魔法で周囲を探った。
「……なんだ、反応が多すぎる。人間の反応なんて、逆に分からないぞ!!」
こうなったらこれしかなかった。
僕は最高速度が出せる四足走行で物陰を手当たり次第に探した。
「のわ!?」
ちょうど出くわした悪そうな人の顔面に、渾身の爪入り猫パンチをお見舞いした。
悲鳴を上げてのたうちまわるそれに見向きもせず、僕は次々に怪しい物陰に飛び込んでは、猫パンチで撃破していった。
結局村中を回って変なヤツがもういない事を確認して、僕はアルマの元に急いだ。
刺さっている矢は三本。
どれも信じられないくらい深く刺さっていた。
「……やるしかないよね。微妙だけど」
僕は最大級の魔力を使い、知っている中では最高の回復魔法を使った。
刺さっていた矢が抜け、ここまでは良かったが限界が近かった。
「最後は気合いだぁぁぁ!!」
しかし、なんの意味もなかった。
回復魔法が不安定になりはじめた。
「き、気合いじゃダメだったじゃん!!」
しかし、諦めるわけにはいかなかった。
僕は、ここで使い魔ならではの方法を使う事にした。
主の生命力を、そのまま叩き込むという荒技だった。
本来は逆の用途だが、やってやれないことはなかった。
「……猫の生命力がどれほどのものかしらないけど、これしかない」
僕は目を閉じ、アルマと契約で繋がれている魔力線を辿った。
「……やっぱり死にかけてる。これしかない」
僕は感覚で拾った通り、自分の生命力を根こそぎ叩き込んだ。
「……よし、立て直したぞ」
アルマの消えかけていた生命力の回復を感じ取りながら、僕は目を閉じた。
「……あのさ、使い魔としてきっちり繋がったみたいだから、レオンの記憶が丸見えなんだよね。なにしてんの、自分の命を私に叩き込むってさ」
首の根本を掴まれてアルマの顔の前にぶら下げられ、僕はひたすら怒られていた。
「なにやったか分かってるよね。私に君の命背負わせて生きろと……嬉しくないからね、いっておくけどさ。そりゃね、助けてくれた事自体は感謝してるんだけどさ、そういうヤケクソな気合いと根性は一切いらないからね。なにすんの、マジで。そりゃ私だって怒るよ、これは怒るよ。うん」
「……いくらでも怒ってよ。僕は正しいと思ってるから。そこに使えるものがあったから使っただけだよ。だって死にかけてるんだよ。他に手がないんだよ。やらないって選択肢があると思うかな。僕はないと思うよ。やる事とやったとしか思ってないよ」
アルマの顔が引きつった。
「……ほう、いうようになったな。いいだろう。とことん説教してやろう。自分の命を何だと思ってるの。バカじゃないの。そこの考えがまずおかしいんだよ。君が犠牲になって私が助かるって、これどう思うか考えつかないかな。最低な気分にしかならないぞ。なに、その遺体を私が埋めるの。冗談じゃねぇよ!!」
アルマが僕を抱きしめた。
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