第20話 湖畔にて

「はい、到着。なかなかいい感じじゃない」

「へぇ、これが……」

 目的地ではないけれど、到着した湖は大きかった。

「まあ、私は滅多にいかないんだけど、たまには観光名所っぽいところもいいもんだ!!」

「さすが、一度はいきたい場所だね。結構、人がきてるね」

 大きな水たまりではあるけれど、景色もいいし確かにいい場所だった。

「ほう、こんな場所で君とデートか。悪くないな!!」

「……デートとかいわないで」

 アルマは笑みを浮かべた。

「なんだおい、いっちょ前に赤くなって。んだよ!!」

「……だって、誰かと出かけた事なんてないもん。まして、アルマは女の子だよ。使い魔にしちゃった時に、一番困ったのがこれなんだもん。そりゃ人間だけどさ、女の子だよ。困っちゃうじゃん」

 アルマはニヤッと笑った。

「なんだ、私のこと生意気に女の子とか認識してるのか。馬鹿野郎、これのどこが女の子だよ。気色悪い事いってるんじゃねぇ!!」

「女の子は女の子だよ。まあこれが男の子だったら、それはそれでむさ苦しいけど……」

 アルマが笑った。

「お、お前、意外とそういうところあるんだな。じゃあ、しょうがねぇな。女の子らしくデートしてやるぜ!!」

 アルマは僕を抱きかかえた。

「さて、湖の定番はあるかな……あったぜ!!」

 アルマが連れてきたところは、湖に浮かぶ変な乗り物がたくさん置いてあるところだった。

「湖デートの定番はボートだろ。やったことないから知らないけど。なんか、さすがに猫サイズだから小さいな。乗れるには乗れるけど……」

 よく分からなかったけど、僕はアルマと向き合ってボートに乗った。

「それでひたすら漕ぐんだよ、これは野郎の仕事だぜ!!」

「えっと、この棒を両手でもって、せっせとやるんだね……」

 行き当たりばったりだったけど、僕は必死にボートの何かを漕いだ。

「結構難しいんだがな、なんか覚えるの早いな。さすがってところか!!」

「慣れればどってことなけど、体力が……」

 湖面を必死にボートで進み、湖の真ん中辺りで止まった……というか、バテた。

「おう、やれば出来るじゃん。ここまできたぞ!!」

「お、男って辛い……」

 アルマが笑みを浮かべた。

「しょうがねぇな。あとは私が漕いでやるよ。小さいな!!」

 アルマの一漕ぎで、ボートがもの凄い速度で動き始めた。

「おらおら!!」

「ぎゃああ!?」

 おおよそ正気とは思えない速度でボートは湖面を跳ねながら進み、同じ所を何周かして止まった。

「この速度でコントロールするのは、もう我ながらプロだな!!」

「よ、よく壊れなかったね。案外、頑丈なもんだ……」

 アルマが笑みを浮かべた。

「そうでもない。穴が空いたみたいだぞ。絶賛浸水中だ。足下、ビチョビチョだろ!!」

「……も、戻らないと。なんで、こんな遠い場所で止まるの!?」

 僕は急いでボートを漕いだ。

「おら、そんなんじゃ間に合わないぞ!!」

「こ、こうなったら……」

 僕は呪文を唱えた。

 両腕の筋力が異常に増強され、ボートが放たれた矢のような勢いで動き始めた。

「おう、やれば出来るじゃねぇかよ。でもよ、これでもっとぶっ壊れたぞ。もう。半分くらい沈んでるぞ!!」

「ど、どうしろと!?」

 僕は慌てて呪文を唱えた。

 ボートが湖面から飛び上がり、放物線を描いて陸地に向かって飛んでいった。

「おう、新しいな。これ、このまま地面に激突しそうだけどよ。根性で耐えろってノリか?」

「え、えっと、次の呪文!?」

 しかし、僕が呪文を唱える前に、跳んだボートは地面突き刺さった。

 粉々に砕け、気がついたら僕はアルマに抱きかかえられていた。

「面白いことやるじゃん。反射神経鍛えるには、いい遊びだぜ!!」

「ただの事故だよ……」

 アルマは笑みを浮かべた。

「よし、ボート遊びの次はなんだ。疲れたからなんか食うか?」

「うん、いい匂いしてるしね……」

 僕たちはなにか屋台が集中してある場所にいった。

「なにがいいんだ?」

「僕に聞かれても分からないなぁ。師匠もそこまではいってなかったし。こういうときの魔法使い的な思考は、片っ端から全部叩くだよ」

「おう、それでいこう。要するに、全部買うんだろ?」

 僕は屋台を右から左まで全部回り、とても持ちきれないので買ったものをアルマに預けた。

「全部叩いたよ。もの凄い量になっちゃったね……」

「なかなか豪快な買い物するな。とりあえず、食っちまおう!!」

 猫サイズのベンチにアルマが座れないので、適当な草原に腰をおろした。

「ほれ、食わせてやる!!」

 アルマが買った何かを差し出した。

「……照れる」

 僕はそれを囓った。


「うん、買いすぎたね。僕はもう気合いいれても食べられないよ……」

 草原にひっくり返り、僕は伸びていた。

「んだよ、だらしねぇな。このくらいガンガン食えっての!!」

 アルマが残りを全て平らげた。

「ほれ、大したことない。気合いが足りねぇよ!!」

「……単純に胃袋のサイズかと」

 アルマが僕の隣に転がった。

「これも旅だぜ。食ったり飲んだりもな。全部なんかよく分からないヤツだったけど、美味いは美味かったな!!」

「うん、僕もみた事ない食べ物だったからね。なにで出来てるのかも分からないよ」

 アルマはぼくに顔をくっつけた。

「こうしてると安心するんだぜ。この場所はよく分からんから、君だけが頼りだしな!!」

「僕、何も知らないよ。ここまでも、初めてばかりだから当てにはならないよ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「それでもだ。たまには、相棒連れて旅してみるもんだ!!」

 アルマが起き上がり、僕を抱えた。

「よし、湖を渡るか。船の乗り場はさっき確認いておいた。これは、基本だぜ!!」

「ほら、当てにならないでしょ?」

 アルマが笑みを浮かべた。

「こうやって私に抱っこされてりゃいいよ。ここまで環境が違うと、さすがに私もちょっとは怖いんだぞ!!」

「まあ、これで役に立つなら……」

 僕たちは船の乗り場にいった。

「ってさらっていったけど、船って聞いた事しかないよ」

「そうだな、色々種類があるけど、湖を越えるだけなら大した船じゃないと思うぞ」

 アルマがいうと、船着き場に向かって巨大な船が接近してきていた。

「……おいおい、海でも渡る気かよ。なんだ、あのデカい船!?」

 アルマが目を見開いた。

「……想定外だったらしいね」

 巨大な船が船着き場に着いた。

「ああ、乗船券買ってなかったよ。これ絶対ややこしいぞ……」

 アルマが船着き場の脇にある小屋に行った。

 しばらくして、額に血管を浮かべて帰ってきた。

「おい、特等船室しか空いてねぇとか抜かしやがるぞ。馬鹿野郎、どこの旅人がそんな贅沢すんだよ。雑魚寝の一番安い部屋って相場が決まってるんだよ。これは譲れねぇ!!」

「……だって、ないならしょうがないよ。諦めよう」

 アルマがため息を吐いた。

「なんでこんな贅沢すんだよ。ねぇからしょうがないけど、蕁麻疹が出そうだぜ!!」

「そ、そこまで嫌なの?」

 結局、アルマが買ってきた乗船券は、一番高いものだったらしい。

「……」

「お、怒らないで、僕の財布から出していいから!?」

 アルマが睨んだ。

「そういう問題じゃねぇ。なんで、特等なんだよ。一番乗っちゃいけねぇ野郎だ!!」

「……分からないけど、拘りがあるんだね」

 アルマが僕を抱えた。

「ムカつくけどしょうがねぇ、乗るしかないぞ。ああ!!」

「……落ち着いて。ね?」

 僕たち船に向かって歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る