第19話 こんな時もある

「おっと、お客さんだ!!」

 道を塞いだのは、二十人くらいの猫だっだ。

「……よくいる強盗だよ。脅せば逃げるよ」

 アルマがニヤッと笑った。

「このファ○キンクソ野郎。邪魔だから退けや、コラ!!」

 アルマが怒鳴った。

「……なんか下品」

 一同ビクッとしたが、根性はあったらしかった。

 誰かが呪文を唱える声が聞こえ、僕は一瞬身構えた。

 全身をピリッとした感覚が走り抜け、それが何だかすぐに分かった。

「魔法を封じられたよ。この拳銃じゃ当てにならないし、要するに我が輩はただの猫である!!」

「いいから落ち着け、要するに蹴散らせばいいんだろ!!」

 アルマが集団に飛び込み、ひたすら強盗たちを投げ飛ばしはじめた。

 その間に難を逃れた強盗たちが僕を取り囲んだ。

「……な、なんか用事でも?」

 強盗たちは一斉に刃物を抜いた。

「……大体わかった」

 思わずため息を吐きそうになったとき、やっぱり一斉に刺された。

「あー、この野郎!!」

 こっちに気がついたアルマが、強盗猫を蹴散らしながらやってきた。

「うちの子に何しやがる!!」

 ブチキレたアルマが、僕を囲んでいた強盗猫を持ち上げて地面に叩き付けては、ガシガシ踏みつけ、たちまち片付けてしまった。

「お、おい!?」

「どの程度かわからないけど、僕が痛いって事は結構深い?」

 アルマが僕を抱えた。

「さっきの集落が一番近い。急げ!!」

 アルマはちょっと前に出たばかりの森に駆け込み、勢いよく集落に駆け込んだ。

「ど、どうした!?」

「刺された、治療しないと!!」

 僕はアルマに手近な家に投げ込まれた。

「も、もっと、優しくした方がよくないか?」

「うるせぇ、なんとかしろ!!」

 とにかく、僕の怪我の治療が始まった。

 回復魔法を数人でかけてもらい、問題なく怪我は治った。

「危なかったですね。もし、投げ込んでなかったら、どうなっていたか……」

「ほれ、投げ込んで正解だろ!!」

 アルマが僕を抱えて笑みを浮かべた。

「助かったぞ。またな!!」

 というわけで、僕たちはまた道を歩き始めた。

「……困ったな。魔封じを食らうとしばらく魔法が使えないんだ。普段は気合いで弾き返すんだけど、完全に油断してたな……」

「なんでも気合いかよ!!」

 僕は頷いた。

「この場合はあながち間違いじゃないんだ。これって、精神に働きかける魔法だから、気合いで蹴散らせるんだよ。まあ、気合いていうとアレなんだけど、精神力で黙らせるというか、荒っぽい防御方法しかなくてさ。まさか、あんなのに負けるとは……」

 僕はため息を吐いた。

「なんだよ、お前も負けちまった口かよ!!」

「……ショックだよ。あんなどうでもいいカスみたいな雑魚にやられるなんて」

 アルマが僕を抱いた。

「今の暴言でどれだけショックだったか分かったぞ。かなりだな!!」

「……うん」

 僕はアルマの体に頭を乗せた。

「ぬぉっ、甘えやがった!?」

「……そりゃね。僕だってあるよ」

 アルマが僕を撫でた。

「甘えとけ。これはこれでいいぜ!!」

 僕を抱えたアルマは道を進み、適当な道ばたに座った。

「よし、もう大丈夫か?」

「……もう気持ちは大丈夫なんだけど、魔法がまだっぽいね。これないと、僕ってなんなのって感じだし」

 僕はため息を吐いた。

「魔法ってきちんと理論を学んだ正統派みたいなものと、必要な要素だけ継ぎ接ぎしたような我流みたいなのがあるんだけど、これはその我流だね。こっちの方がタチが悪いんだ。なにしろ理論もなにもないから、全然読めないんだよね。通常、こんな長時間効果が持続するような魔法じゃないからさ。困ったな」

 アルマが笑みを浮かべた。

「こういうときこそ、私の出番じゃないの。剣で蹴散らせばいいだけでしょ?」

「……うん、そうなんだけど不安だな」

 アルマが僕を抱きかかえて立ち上がった。

「今まで剣一本で一人旅してたんだぞ。任せない!!」

「……分かった」

 アルマが道を歩き始めた。

 ちょっと進むと気持ち程度の森に差し掛かった。

「……おっと、いるね。こういうところは、大概潜んでるからな!!」

 アルマが剣を抜くと、魔物が三体道を塞いだ。

「肩に乗ってて、一気に片付けるから!!」

 アルマは僕を肩に乗せ、素早く一体に向かって斬り込んだ。

 重たい音がして、魔物の体に食い込んだ剣が止まった。

「また固いよ。なに食ってんだか……」

 一度間合いを開け、アルマは笑みを浮かべた。

「骨が頑丈なだけだろ!!」

 魔物の体が崩れ、一体が道に倒れた。

「ほらね、やり方次第だ!!」

 アルマは次の一体に向かった。

「ダメ、見た目は似てるけど、ソイツはヤバい!!」

 僕の声にアルマは走る向きを瞬時に変え、その隣にいた三体目を斬り倒した。

「で、あいつのなにがヤバいの?」

「高い魔力を持ってるよ。迂闊に近づくと、なんかの魔法攻撃がくると思う。剣で倒すのは危険だね」

 アルマは笑みを浮かべた。

「剣しかないもん。やるしかないでしょ!!」

 アルマは一気に間合いを詰めた。

 魔物から放たれた火球を避け、頭に向かって縦一文字に剣を叩き込んだ。

 硬い骨に弾かれた剣だったが、魔物の動きを止める役には立った。

 その隙に脇に回り込んだアルマは、剣を素早く振って魔物の体を斬り払った。

 魔物が脇にいたアルマに向かって火球を放った。

 避けようともせず、アルマに直撃した火球は燃え上がったが、アルマは笑みを浮かべて魔物の体をひたすら斬った。

 程なく魔物は道に倒れた。

「あっつい、なにすんのよ!!」

 アルマは魔物の体を蹴飛ばした。

「……うん、肩にいた僕も熱かったよ」

 アルマはひたすら倒れた魔物を蹴飛ばし、息を吐いた。

「ったく、これだから魔法は。剣で倒すと、熱いんだよ!!」

「……熱いで済んで良かったよ。むしろ」

 アルマは笑みを浮かべた。

「ほら、やろうと思えば何とかなる!!」

「……あのね、髪の毛がエラいことになってるよ?」

 僕の言葉に、アルマの動きが止まった。

「ああ、魔法なんて嫌いだ!!」

「……僕の事は嫌いにならいでね」

 アルマは僕を抱きかかえ、ため息を吐いた。

「……まだダメなの?」

「うん、もう大丈夫っぽい。もう少し待てばよかったね」

 アルマはため息を吐き、道を歩き始めた。

「もうちょっとで湖だからね。あと、髪の毛直して!!」

「……元々ってどうだっけ?」

 僕は呪文を唱えた。

「……やるんじゃなかったな」

「こ、こら!!」

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