第18話 森で一暴れ

「冷静になって思ったよ。早く王都に行って止めないと!?」

「それはお勧めしないな。渦中の人が飛び込んでみなよ、一気に燃え上がっちゃうよ。私たちは普通に旅をするべきだな。次は街だね。村より規模は大きいはず。それに、どうも湖を渡るみたいだね。ダレスニダ湖って書いてある」

 アルマが地図を見ながらいった。

「ダレスニダ湖なら聞いたことがあるよ。この国でも綺麗な場所で、旅嫌いな僕たちでも一回は行きたいって思う場所なんだ。僕もその一人だけど」

 アルマが笑みを浮かべた。

「なら行くしかないだろ。王都なんかいって、ぶっ壊してる場合じゃない!!」

「うん、いこう」

 僕は呪文を唱え、家を片付けた。

「……いこう」

「家から出ると急に大人しくなるな。気合いいれてテンション上げろ!!」

 アルマが笑った。


 僕たちは村を後にして、道を歩いた。

「もうちょっと行くと森林地帯だね。先生、なにか注意する事は?」

 アルマが笑った。

「……うん、聞いた話しだと森が大好きな種族がいてね。フォレスティアンだったかな。絶対にもめ事を起こさないで。全員で一家族って考えをするみたいだから、誰か一人でも傷つけようものなら、全員の敵だって袋だたきにされるから。弓と独特な魔法を使うらしいんだ。敵には回したくないよ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「なるほどね、むしろ友達になりたい系だな。そいう変なのと!!」

「気むずかしいらしいよ。もし、警告されたら絶対に動かないで。明らかに分かるはずだから。じゃなきゃ、警告にならないし」

 アルマは僕を抱きかかえた。

「分かったよ。大人しくしてりゃいいんだろ!!」

 僕たちは道を進み、やがて前方に大きな森が見えてきた。

「多分あれだね。魔物の気配もないし、やっぱりいるね」

「こりゃ楽しみだな。最初は友好的にはこないぞ。こういう系統は!!」

 しばらく進むと、森の入り口あたりでカラカラ音が聞こえた。

「警告だ。止まって!!」

 僕を抱きかかえたまま。アルマが止まった。

 しばらくすると、背が高い人間のような人たちが数人目の前からやってきた。

「敵意はなさそうなのでな、あえて武器は置いてきた。猫を抱えた人間がこんな物騒な道を歩いてくるなど、まず例がないのでな。少し気になってしまったのだ」

「あれ、随分友好的だね!!」

 その人は笑みを浮かべた。

「相手の態度によるかな。我々の警告音に気がついて、素直に止まってくれただろう。こんな相手に敵意を向ける方が、どうかしていると思わないかね。なにも、争いを好んでいるわけではない」

「ほう、先生のいった通りだぜ。さすがだな!!」

「……先生はやめて」

 その人は手招きした。

「まあ、なんだ。せっかくだから休憩でもしていけ。というより、うちの戦士どもが騒いでな。その剣を持っている方はどうみてもただ者じゃないから、ぜひお手合わせをとな。構わないかな?」

 アルマは笑みを浮かべた。

「そういうのは大歓迎だぞ。武器は剣ならなんでもいい。まさか、真剣ってわけにはいかないだろ!!」

「そうだな、訓練用の木剣がある。これで試合をして欲しい。いきなりで不躾だが、とにかくうるさくてな」

「おう、気合い入ってていいじゃん!!」

 その人は笑みを浮かべた。

「この先にささやかな集落のようなものを作っている。とにかく、待ちきれなくて自分たちで始めてしまう始末だ」

「ノリノリじゃねぇか。コイツは楽しみだ!!」

 僕を抱えたまま、アルマはその人についていった。

 森の中に小さな家が並ぶ村のようなものがあり、その広場で確かにたくさんの人が暴れていた。

「おお、気合いはいってんな!!」

 僕たちがくると、一斉に整列した。

「おい、無理をいってお連れしたぞ。全員とやってたらキリがないから、リーダーのお前だ。一騎打ちで決着をつけろ」

 アルマが笑みを浮かべた。

「一騎打ち、いい言葉じゃないの!!」

 その人が木剣をアルマに手渡した。

「棒きれでもやるなら殺す気でいくよ。それが、礼儀ってもんだからね!!」

 アルマは僕を地面に置き。一歩前に出た。

 相手の一歩前に出た人は、どう見たって強そうな人だった。

 間違えても、夜道で出遭いたくないタイプという感じだった。

 アルマは微かに笑みを浮かべ、木剣を構える事なくただ手に持っただけで対峙した。

「……なるほど、これは強いぞ」

 低く渋い声で相手の強そうな人は、やはり構える事なく木剣を持った。

 そのまましばらく睨み合いが続き、先に動いたのは相手だった。

 僕の動体視力ギリギリの速さで間合いを詰めると、鋭い突きを放った。

 半身だけ動かして避けたアルマは、素早く横薙ぎに木剣を振った。

 その一撃を素早く動かした自分の木剣で受け止め、アルマに鋭い蹴りを入れた。

 それを少しいう後ろに跳んで避けたアルマは、続く攻撃で繰り出された相手の横凪の木剣を身をかがめて避けた。

 そこから、まさかの伸身の右ストレートが相手の顔面に入った。

 後ろに跳んで間合いを開けた相手は、小さな笑みを浮かべた。

「……なるほど、確かに強い。しかし、我流がどこまで通じるかな」

 相手は静かに剣を構えた。

「……誰が我流っていったかな。やり過ぎちゃうからやらないけど、あんたはこれじゃなきゃ無理だね」

 アルマは切っ先を地面に向け、軽く腰を落とした。

「……ほう、ようやく本気になってくれたか。いざ、参る!!」

 相手の速度は、もはや僕の目では捉えられなかった。

 ただ木剣同士が当たる音やなんかぶん殴るような音だけが聞こえ、動きが全く追えなかった。

「ぼ、僕の動体視力で追えないって、もはや人間じゃないよ……」

 とにかくひたすらやりあって、再び間合いを開けて一息吐いた時、どちらもズタボロになっていた。

「ぼ、木剣で切り傷が出来てるけど!?」

「……うむ、これは楽しませてくれるな。ここまでの相手は、初めてかもしれんな」

「……甘いよ。もう勝負はついてる。私の負けだ」

 アルマが倒れた。

「……そ、その言い方で負け!?」

 相手の人が木剣を放り投げた。

「もし、使い慣れた真剣だったら、あるいは分からんぞ。実に拮抗した戦いだったのだ。少し体を強く打っている。休ませた方がいい」

 様子をみていた皆さんが一斉に動き、アルマを手近な家に運び込んだ。

「お前も早く行け。治療中だと思うぞ」

 僕は頷いてアルマを追いかけた。


「ったく、負けちまったぜ。なんだ、あの強さ!!」

 アルマはもう意識を取り戻した。

「だ、大丈夫なの!?」

「おう、なんともねぇ。まいったぜ、たまにこういうのがいるから楽しいんだよ。私は弱くはないとは思ってるけど、決して強くはないからね。こういうことも起きるんだ!!」

 アルマは僕を抱きかかえ、そっと顔を押し付けた。

「……まあね、気持ちは分かるつもりではいるよ」

「……うるさい、お前なんかに分かるか」

 アルマは僕を強く顔に押し付けた。

「……鼻はかまないでね」

「……やったろか?」

 さっきの相手の人がやってきた。

「うん、これでまた強くなるだろう。やれやれ……」

「……当たり前だ、次はぶちのめすからな」

 相手の人はニヤッと笑った。

「いつでも待っている。骨があるヤツが、なかなかいなくてな」

 その人が出ていった。

「……あの野郎、次はボコボコにしてやる」

 アルマが僕を力強く顔に押し付けた。

「い、いたいって、それ以上やると、僕の中身的なものが出ちゃうからやめて!!」

 アルマは僕を放り投げた。

「あー、ムカつく!!」

「……これが本音だよね」

 僕は苦笑した。


「いや、もうしわけなかった。先ほどの者が痛く気に入ってしまってな、お近づきの印だそうだ。剣はもう多く持っているようなので、便利道具に近い短剣だが」

 アルマに鞘に入った短剣を差し出した。

「おや……結構いいものじゃん。この子に装備させて置こうかな」

 アルマは僕をみた

「つ、使えないって、この手じゃ持てないし!?」

「ん、そっちも欲しいのか。猫手仕様か……いや、私は武器作りが好きでね。魔法使いとて、非常時の武器は必要だろう。非力そうだからな、刀剣類はダメだろうな」

「す、スイッチ入っちゃったよ!?」

「いいじゃん、武装魔法使い猫!!」

 アルマが喜んだ。

「ぼ、僕が僕じゃなくなる!?」

「持ってろよ。魔法じゃ対応できない時もあるだろ!!」

 アルマが僕を抱きかかえた。

「よし、ここ最近開発した武器があってな。非力な者でも十分な打撃を与えるための武器なのだ。少々、音が大きいのが欠点だが、これなら君でも戦えるだろう。猫手でも使えるように、少々改造してくる」

 その人は近くの家に入っていった。

「ど、どうしよう!?」

「もらっとけよ、あって損はない!!」

 その人がすぐに出てきた。

「うん。その細い腰だか体だかに巻くベルトは急作りだがな」

 なにか鞘のようなものに、みた事がない武器が収まっていた。

 試しに抜いてみると、どう使うのかも分からない奇妙なものだった。

「教えよう。簡単にいってしまえば、ここから弾丸を発射してぶちのめす武器だ」

 しばらく教わり、使い方だけは分かった。

「一発撃ってみろ」

 僕は教わった通りに操作した。

 爆発音とともに遠くにあった木の皮が弾け飛んだ。

「まあ、そんな感じだな。サービスで二丁にしておいた。二丁拳銃の魔法使いだぞ。格好いいではないか」

 その人は笑った。

「……ぼ、僕、こんな子じゃないよ。なに、このど派手な武器?」

「へぇ、こんなちっちゃい銃は初めてみたな。いいじゃん、強烈だぞ。しかも、二丁拳銃って事は、両手に持ってバカスカ撃ちまくりながら、攻撃魔法でドカンって感じか。いいじゃん、もう怖くて誰も近寄れねぇよ!!」

 アルマが僕を抱えた。

「んじゃ、またなんかの拍子でくるよ!!」

「うむ、待っているぞ」

 僕たちは集落を出て、森の道を歩いた。

「なんか、強烈だったな。アルマが泣いたぞ」

 僕は笑みを浮かべた。

「……お前、ぶっ殺そうか?」

 アルマがムスっといった。

「だって、どう考えたってまずあり得ない光景だもん」

「どーいう事だよ。しまいには三枚下ろしにするぞ……」

「……怖いから、これ以上はやめよう」

 森を抜け草原に出た僕たちは、ゆっくりと旅の道を進んでいった。

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